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No.9 1993年11月 |
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【出版権の話(1)】 |
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これから何回かにわたって、出版権について、最近問題になっていることを書いていきます。出版権とは、同一内容のものを他社から出版されない権利です。学術書出版の分野でも、この出版権の解釈によってトラブルがおきています。話をわかりやすくするために、具体的な例で説明しましょう。
朋文出版が企画した『日本史学 年次別 論文集』について、論文を転載された学会誌の発行団体が、無断転載であると抗議をしています。もちろん朋文出版は、論文の執筆者の了解はとっているはずですが、論文の発行者の許可をとっていなかったものがあったと思われます。
では、執筆者(著作権者)が転載を許可したのに、発行者がそれを拒否することができるのでしょうか。
答は、「場合によっては、拒否できる」。すなわち、執筆者と発行者とのあいだに契約があれば、それに拘束されます。現に「投稿規定」で論文の転載に規制をくわえている学会があります(これが、契約に準じるものとなるのでしょう)。
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例 |
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日本史研究会 |
「掲載原稿の転載は、原則として1年間は転載を控えてください。また、転載にあたっては必ず会に承諾を得て下さい」 |
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大阪歴史学会 |
「掲載論文の転載は、掲載後1年間は見合わせて下さい」 |
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日本民族学会 |
「本誌に発表されたものを転載する場合は、編集部に御一報の上、出版物を1部本学会に御寄贈下さい」 |
では、特に契約(規定)がない場合、発行者は転載を拒否できないのでしょうか。答は「拒否できない」。それは、執筆者がその雑誌にその時かぎりに掲載を許可したのであって、ほかに転載するのは、執筆者の自由になります。但し今回の朋文出版の企画の場合は、掲載誌をそのまま写真版で複製したので、出版権とは別に版面権というものの侵害という問題もでてきます。
紙面の都合で、説明が不充分ですが、その点、御了承ください。
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版面権については、出版業界の内部でもまだ統一的な理解が得られていないようです。著作権も出版権もきれている本が、版面権という一番弱いはずの権利だけが生きていて、覆刻できないケースがあるのです。「出版権の話(2)」は、No29。 |
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