No.29 1995年7月
【出版権の話(2)−自分の論文を自分の著書に入れられない?】
 このタイトルを見て、そんな馬鹿な、と思うでしょう。でもこれは実際にある話です。これは出版権の拡大解釈だと思うのだが…。そこで実例を、小社では、93年2月に吉川弘文館にたいして論文の転載許可願をだしたが、転載を拒否された。それは、私にも納得できる理由ではあったのだが、そのなかに次の一文があった。「小社では、原則として初版刊行後三年以内の転載はご容赦いただいております」。そこで私はその執筆者に聞いてみた、執筆にあたってこういう条件があるのを知ってたか?と。答は、「そんな話は聞いてない」。ほかの人にも聞いてみたら、やはり同じ答が返ってきた。もちろん吉川さんも「原則として…ご容赦いただいております」ということだから、頭っから「転載させません」などと言っているわけではないのは判かる。でもそう言うなら、ちゃんと執筆者一人ひとりに断っておけよ、と言いたい。
 吉川さんを引き合いに出してしまったが、他でも同じような話を聞く。でもこれは著作権法上、問題がある。出版社が転載を拒否できるのは、出版契約を結んで出版権を設定した場合のみである。個人著作の場合は出版契約を結ばなくても慣例として出版権が設定されているとみなされることもあるが、共同執筆の論文集の場合は、雑誌に投稿するのと同じで、出版権が設定されたと解釈するには無理があるだろう。
 ちなみに小社では、原稿を頂戴した時点で出版契約書を取り交わしているので、その本の「全部もしくは一部を…転載ないし出版させない」ことができます(但し協同執筆の論文集の場合は、「もしくは一部」の項を削除し、転載できるようにしてある)。しかし、実際に、自分の著書を出版しようとして、既発表論文を再録しようとしたら、元の論文を掲載した出版社から転載を拒否されたとしたら、どうしますか。
     
  最近、契約書を取り交わすのを忘れて、出版直前になってあわてて結んでいます。忘れないようにしよう。

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