ミナエ婆の「村むがす」
―山形県口承文芸資料―

鈴木久子・野村敬子編

1999年2月刊
A5判・158頁・口絵4頁・並製本・カバー装
ISBN4-87294-132-2
1900円
書評再録へ(2)

本書には、山形県新庄市蛇塚在住の佐藤ミナエの「村むがす」19話を、聴いたまま翻字して収めた。「むがす」は、山形県北地方の昔話・伝説・世間話などを総称する民俗語彙である。ミナエ婆は、それら「むがす」を200話近く記憶するが、特に本書では婆の最も特徴的な「はなし」の領分を取り上げてみた。
彼女は幼くして、盲目の祖父を助けて按摩の手引きとして働き、とうとう文字を識ることなく成長した。所謂「無文字」の話者である。ミナエ婆の耳が貯えた「むがす」は、その意味で純粋な口承の所産として、今日の伝承文芸を著しく刺激する。
婆の口承世界は、総てにおいて、産む性、育てる性の女性特質に彩られている。
        
『こゆき』より……ミナエ婆は、酷しい当地の吹雪由来を、世間の「むがす」として解く。この『こゆき』は、産んだばかりの我が子を姑に口減らしのために捨てられた嫁が、吹雪の中で子の名を呼び続けるという内容である。
「コオイチ(赤ん坊の名前)居ない。ガガサ(姑)さ聞けば“知らない”、ツァツァ(祖父)さ聞けば“分んね”ていうな。オバコ(妹)さ聞けば“コオイチ、天国さ行ったべ、死んだべ”て言うなよ。コオイチ死んだべて」
「誰、殺したな」
「分かんね。“橋の上から、身投げしたべ”て、オバコ言うな」
ガガサ、橋の上から、川さ流してやったなぁ。「コオイチ流したがな! ガガサ!」



【主要目次】

こゆき/赤げべべこ欲しい/灰は千万の舟となるならば/運徳寺の和尚さん/村むがす/病送り/お釈迦様と犬/お釈迦様と鬼と鼠こ/嫁と姑/極楽参り/四月八日お釈迦様/「来たが」の化け物/「蚊ブーン」の化け物/餅は熊餅/按摩の屁/死んだ人、生ぎできた話/ヤマコの子供・金太郎/大岡裁き/六月土用村
 
【解説】野村敬子

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