鈴木久子・野村敬子『ミナエ婆の「村むがす」』
掲載紙 毎日新聞山形版(99.2)


口承だけで受け継がれてきた民話を、活字にして後世まで残したいと、このほど新庄市の語り部が受け継いできた民話十九話を聞き取って活字にした「ミナエ婆の『村むがす』」(岩田書院)が出版された。
語り部は、同市飛田、佐藤ミナエさん(82)。話を聞き取って編集したのは真室川町出身の民話研究家、野村敬子さん(60)=東京都江戸川区=と、新庄市金沢、団体職員、鈴木久子さん(53)の2人。
佐藤さんは、鮭川村川口生まれ。3歳で母と死別するなど家庭の事情で学校に通えず文字を学ぶ機会に恵まれなかったが、マッサージ師をしていた目が不自由な祖父の手を引いて村内を回っているうちに、祖父の語る昔話を覚えたといい、その数は200以上に上る。
鈴木さんは、新庄市内の民話サークルに約10年前から参加しているが、佐藤さんの語る不倫をテーマにした「六月土用村」を聞き、臨場感と女性ならではの情念の深さに強くひかれ、文字に残したいと思つた。
そこで、民話を通して知り合い、思いを同じくする野村さんと共同で3年がかりで、約100話の語りを聞き取り、聞いたまま活字化してきた。
民話といえば、子供向けの話が多いと受け取られがちだが、厳しい生活環境の中で継承した佐藤さんの昔話は、当時の人の暮らしぶりや、情景、情感などを事細かに表現した感情のこもった話が多い。
今回収録された19話の中にも、生まれたばかりの子供を捨てられ、探す途中に死んだ若夫婦が雪女と雪男になってしまった「こゆき」のように、民話の当時の厳しい暮らしぶりを反映した悲劇や、複雑な男女関係を描いた話が多く「大人の民話」ともいえる。
野村さんは「純粋に口承されてきた佐藤さんの民話は貴重で濃密」と話している。また鈴木さんは、「この本を通して佐藤さんの民話の世界を知ってもらいたい」と話し、続編の出版も考えている。(斎藤良太)
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