No.823(2013.10)

【岩田書院の「なぜ」?B】

 Q1:なぜ一人で年間60点の新刊を出せるのか、という問いに対して。答えは二つ。
 A1-1:原稿があるから。いくら出版したいと思っても、原稿がなければ本は出せません。その原稿が次から次へと来ます。それには、いくつかの要因があります。原稿が「来ます」と書いたのは、ほとんどの場合、こちらから依頼したのではなく、依頼されて出版するからです。
 人文系専門書の場合、著書の「あとがき」に常にみられるように、「この出版事情の厳しいなか、出版していただいた」という趣旨の、出版社に対する謝辞が入っています。それだけ事情は厳しい。どう厳しいか。出版社が著者に対して、経費負担を要求する。
 何冊買上げろとか、100万円用意しろとか、どこかから助成金をもらってこいとか、もちろん言い方はもっと柔らかいですが、言ってることは同じ。岩田書院の場合は、一人でやっているので諸経費が少なくてすむので、採算分岐点が低い。だから著者の金銭的な負担が少なくてすむ。
 つぎ、これは基本的なことだが、校正や装幀など、本作りをしっかりすること。それと、広告をきちんとすること。大新聞に広告をださなくても、著者が所属しているような学会の会員には、しっかりと情報が伝わるようにすること。こういったところを著者はよく見ているので、そこで評価され、岩田書院に頼めば安心、と思ってもらえれば、仕事というものは来るものです。来て欲しくないようなものも、来るが…(苦笑)。
 あと、けっこう大事なことだが、著者も出版を断られるのがいやだから、出してくれそうなところに話を持って行く。大きな会社だと、担当者がいいと言っても、営業がダメだと言ったとかで、返事を1か月以上も待たされたうえに断られる。著者のダメージは大きい。そこへいくと岩田書院は私一人だから、即決です。
 A1-2:原稿があっても、それを本にする力がないとできません。一人でできることは限られてます。なので、外部スタッフをフル動員です。編集関係は、フリーの編集者を4、5人お願いしてるし、在庫管理と取次納品は倉庫会社に委託してるし。でも こうやって仕事を外に出していると、その管理がけっこう大変だし、経費もかなりかかります。でも、営業を一人雇っても、売上げが倍になるわけはないから、一人で出来ることは自分でやって、出来ないことは外部に頼む。そして、その範囲内でやって、会社を大きくしようと思わない。自分と家族が生活していければいいのだから。(続く)