No.689/690(2011.5)

【殉死・失踪・病死−ひとり出版社の終わりかたB】

 失踪−高科書店
 高科書店のことについては、私自身、判っていたつもりだったが、いざ書こうとしたらよく判っていなかった。国立国会図書館の蔵書を検索すると、日本史系の専門書が88点。1988年の本が一番古く、最後が2000年である。高科栄次郎さんが、国書刊行会を退社して創立。東京江戸川橋近くに事務所を借りていた。自宅が埼玉の志木市だったと思う。通勤時間がもったいないといって、事務所で寝泊まりしていた。まじめな性格で、ひとりで仕事を抱え込んでしまって、なかなか本が出なくて鬱状態になってしまった。事務所にいるらしいけど電話にもでない。著者は、原稿を預けたのに連絡がつかない、いったいどうなってるんだ、という状態が長く続いた。
 事務所の部屋代も滞納。大家さんがお兄さんに連絡をとって、強制執行で立ち退いてもらった。奥さんが仕事を手伝っていた時期もあったが、どうやら離婚したらしい。そのあと、どこにいるのか、われわれ出版社仲間も誰も知らない。いい本を作っていたのに。出版には、いいかげんさが必要だ、ということ。…高科さん「失踪」。(以下、続く)