No.688(2011.5)

【殉死・失踪・病死−ひとり出版社の終わりかたA】

 殉死−堺屋図書
 芝正夫さんが1983年に創立。1991年11月、脳溢血のため41歳で逝去。この時点でご両親は健在、妹さんがひとり。本人は独身であったため、後継者がなく、廃業。
 刊行書籍としては、大野智也・芝『福子の伝承』、千葉徳爾『女房と山の神』、丸山久子『こどもとことば』、若尾五雄『金属・鬼・人柱その他』、斎藤卓志『稲作灌漑の伝承』大南英明『遊びの指導』など。民俗・福祉関係の本を年に数冊出していた(発売元は星雲社)。大学時代から 民俗学に関心をもって、みずから論文も書いている。出版社勤務の経験はなく、タイプ印刷のようなもので自分で組版をして、製作費を抑えようとしていた。
 それは大変にきつい仕事であったようだ。芝さんは前日からの徹夜明けのまま、この日も仕事に没頭され、深夜の11時に至って何とか顧客への納品を済ませてようやく重労働から解放され、疲弊しきった心身をいやすべく、いきつけの呑み屋に顔を出し、好きな酒を口にして一息ついたところ急に倒れ、そのまま帰らぬ人となった(長沢利明氏の追悼文より)。これを見ると、出版業だけでは 食べていけないので、印刷の仕事を受けていたことが判る。…芝さん「殉死」。(以下、続く)