No.666(2011.02)

【出版ニュース「編集者の日録」】

 出版ニュース社の旬刊誌『出版ニュース』に「編集者の日録」というリレー連載コラムがあって、そこ(2011年1月上・中旬合併号)に以下のような文章を書かせてもらいました。この「裏だより」でいつも書いているようなことですが、初めて読む人もいるかもしれないので、ここに再録させてもらいます。
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 岩田書院は、1993年創立、日本史・民俗学系の専門書出版社で、社員は私ひとり。2010年末までの新刊点数は666点、この1年間に限れば71点、月平均6点で、過去最高。なんでこれだけの出版が可能なのか。理由はいくつかある。
「ひとり」とは言っても、常勤のアルバイトをひとり頼んでいるし、かなりの程度、仕事を外部に委託している。編集スタッフは常時3人、原稿整理や校正を依頼している。倉庫は埼玉に借りていて、そこから取次搬入と直送をしてもらう。経理は、年2回資料をまとめて経理事務所に送って決算の書類をつくってもらう。
 営業はいないので、書店向けの販促はナシに等しい。そのかわり、新刊ニュースを新刊1点につき1枚つくって、それを年に6回、各回1万2000通をDMし(そのほか日本史・民俗系を各1回)、専門雑誌や新聞に広告を載せる。専門書なので 発行部数は数百部。だから委託はしない。ということは、新刊ができても、スタートは0冊。そこから部数を積み上げていかなければならない。
 こうして本をつくる体勢をととのえても、肝心の原稿がなければ、これだけの点数をだせない。そこはよくしたもので、この狭い業界で20年近く(以前に勤めていた会社もふくめれば40年近く)仕事をしていると、つねに、4、50点の企画が動いている。
 出版状況が厳しくなって、岩田書院のような規模でないと出せないような企画が多くなってきたというべきか。逆にいうと、これだけの新刊を出せるということは、それだけ出しやすくなったともいえる。でも、これだけの新刊が出るということは、買うほうが買いきれなくなって、それだけ売れなくなった、ということにもなる。
 そんな状況で、今日も研究会に行って本を売ってきた。そういう積み重ねでしかないということを普通にこなしている自分がいます。電子化の波が来ようとも、あと10年、この体勢でできればそれで充分、という静かな?気持ちで、ひたすら本をつくり続けています。