No.577(2009.9)

【定価設定の根拠】

 本の定価は出版社が決めている。その根拠は、もちろん、1冊当たりの製作原価。本の場合、再販制(定価販売制)があるので、原則として全国どこの書店でも定価販売である。他の商品のように、需要と供給のバランスによって価格が変動する、というものではない。その意味で、定価の妥当性について、出版社は、読者に説明できるかどうかが問われる。ここまでが前提の1。
 ある本を500部作るのに500万円かかったとしよう。1冊原価は1万円である。これを200部増刷するときは、初版の組版代がかからないので、総額は大幅に安くなる(初版に較べて発行部数が少なくなるので、1冊当たりの原価は思ったほど安くはならないのだが)。ここまでが前提の2。
 これからが本題。
 今回発行する『宝満山信仰の環境歴史学的研究』は、まず 大宰府顕彰会から470万円の予算で500部製作した。非売品で、関係者や刊行協力者に配布して 在庫0(ゼロ)。これでは、研究者が欲しくても買えないので、顕彰会の了解をえて、200部、市販本を作ることにした。さて、この市販価格をいくらにするか、という問題である。
 先の前提2の場合は、初版の定価が決まっているから、増刷でいくら原価が安くなっても、定価を下げることはしない(ただし、普及版にして安くする場合はある)。しかし今回は、初版にあたる本は非売品で値段がついていない。そこが悩ましいところ。
 増刷分の原価を基準に定価を設定すると、1万円以下の定価も可能である。一方、別の考え方からすると、A5判・上製・1000頁の岩田書院の本なら、定価2万円以上になる。だから、15000円の定価をつけてもおかしくない、とも言える(言えない?、いや、言える)。
 著者は、できるだけ安くして、読者(研究者)が買えるような定価にしてほしい、と言う。当然でしょうね。だが岩田書院としては、会社全体の利益を考えて、利益が出るところからは、できるだけ利益を出したい、ただでさえ赤字体質なのだから、と思う。そこらあたりの「せめぎあい」の結果が、今回の定価です。これで、説明責任を果たしたことになるのでしょうか。