臨時増刊(2005.08)

文献出版 在庫最終セール

 文献出版の栗田さんが亡くなられて、この8月で三回忌です。この裏だよりで「追悼:栗田治美さん」(2003.09)を書いたこともあるので、ここで、そのごの経過を説明しておく必要があるでしょう。
 栗田さんは、1974年に文献出版を創立し 400冊以上の日本史の史料集や地域史の論文集を奥さんと二人で出版してきましたが、創立30周年を目前に癌で亡くなられました。享年70歳。そのご、お嬢さんが後を継ぐべく動き出したのですが、いろいろあって(本当にいろいろありました)、結局は 奥さんの手で、文献出版を解散させました。数千万円の借金も、自宅と在庫を処分して、ほとんど精算できました。その在庫を処分したものが、古書市場に流れることになります。
 栗田さんは、私がこの業界に入った会社の営業部長でした。栗田さんが独立してから十数年後、私も独立して岩田書院を作りました。ですから、栗田さんは、常に私の前を歩いている人だったのです。
 文献出版も、社員は雇わず、年間、かなりの点数をだしていました。しかし、その販売方法は、岩田書院の対極にあったと言っていいかもしれません。岩田書院は年間広告費を2000万円以上かけて、DMを出し、学会誌に広告もし、たまに新聞にも広告を出していますが、文献出版は、ほとんど何もしない。「欲しい人は探してでも注文してくる」と。確かに広告効果を考えると、無駄だなあと思います。広告費を半額に抑えたら売上げが半分に落ちるか、と問われれば、そんなことはないし、逆に、広告費を倍にしたら売上げが倍になるか、と問われれば、そんなこともないのは判ります。でもねえ。
 そういえば、栗田さんは 書名を気にしない人でもありました。『交通史を主とした論集』。この書名を見て、私は絶句したものです。思わず、何これ? と聞いてしまった。その時も、「これでいいんだ」と。そりゃ確かに判りやすい。でもねえ。
 ひとりでやっている出版社の引き際は、むずかしいものです。文献出版はどうするのか、私の関心もそこにあったのですが、結果としてこのような形になりました。私としても、不本意ながら文献出版の最後を看取るような形になりましたが、これはこれで仕方のないことだと思っています。
 なお、文献出版の解散にともない、同社の本は、書店経由での注文には応じられませんので、ご注意ください。