書誌紹介:渡辺和敏著『東海道交通施設と幕藩制社会』(愛知大学綜合郷土研究所研究叢書一八)
掲載誌:「地方史研究」318(2005.12)
評者:保垣 孝幸

本書は、年間交通量一三万人とも言われる江戸時代最大の街道である東海道の交通施設について、多方面にわたり複合的かつ総合的に論じたものである。
 著者は、東海道に所在した様々な交通施設を利用する側の視点から捉えなおした上で、旅人を支援した施設(第一部)、旅人の障害となった施設(第二部)に分類し、本書を以下のような構成に仕立てている。
 
  第一部 街道と宿場
   序章 江戸時代における東海道交通施設の検討
   一章 東海道の宿立と初期交通行政
   二章 二川宿の本陣役を継承した馬場家の経営
   附論1  本陣
   三章 新居宿旅籠の紀伊国屋
   四章 二川宿の本陣・旅籠屋と立場茶屋の係争
   五章 幕末における舞坂宿の宿財政
   六章 御油の松並木
   七章 秋葉信仰と秋葉道
   附論2 本坂通(姫街道)
   八章 吉田湊から出航する参宮船
  第二部 関所と川越
   九章 江戸時代初期の女手形にみる関所機能
   十章 関所と口留番所
   附論3 旅の障害
   十一章 箱根関所の北方に配置された裏関所
   十二章 東海道天竜川渡船に関する諸問題
   十三章 幕末における江戸周辺の関門

 第一部では、東海道交通施設として、その中心的役割を担った宿場の成立過程を明らかにした上で(一章)、その人馬継立機能について財政状況から検討するとともに(五章)、休泊施設提供機能については、本陣(二章)や旅籠屋(三章)の経営状況を、そして、その対抗関係にあった立場茶屋との関係について論じている(四章)。また、六章では、東海道全行程の約半分とされる松並木の景観復原について言及し、七章では、東海道利用者の中でも利用頻度の高かった脇往還である秋葉道を、八章では、多数の参宮人が利用した吉田湊の参宮船について、宿場機能との関係を中心に論じている。
 第二部は、女手形を題材に関所の機能について考察した九章、全国の関所・口留番所を視野に入れて概観した十章、箱根関所の北方に設けられた裏関所の性格について論じた十一章と、街道利用者にとって最大の障害とも言える関所・口留番所について検討した論考を中心に構成されている。そして、十二章では、往還の障害ともなった川越について、天竜川渡船を題材に様々な問題について論じている。十三章は、本書の中で多少性格を異にするが、幕末期、江戸・横浜周辺に設けられた番所・関門について、その政治的意義や周辺への影響を明らかにしている。

 本書の構成は以上の通りであるが、前記分類でも知られる通り、各論考の基底には.こうした諸施設を利用する側の視点があり、ある時は利用者側の諸史料から、またある時は社会的状況の中から利用状況を抽出し、こうした諸施設を利用者との関係の中で検証している。著者が示した分類については、各章で論じられた個別施設をどのように位置づけるか、さらには、こうした分類自体の有効性など様々な異論もあろうが、様々な交通施設について、その政策−実態の両面から総合的に検討することは非常に重要であり、本書は、その実像を具体的に描き出したものと言えよう。
 著者は、「東海道のほぼ中間地域である、遠江・三河国内を事例とする地域限定」と謙遜するが、こうした個別事例を蓄積することによって、初めて近世交通体系の展望が可能となることは、間違いなかろう。
 
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