「偽文書とは、偽作された贋物の文書である。そのため、記載されている年紀や内容は事実とは受け入れられず、歴史研究の中で取り上げられることは少なかった。しかし、一度作り上げられた偽文書は抵抗無く社会に受け入れられ、偽作された時代にあった機能を果たすようにもなっている。
事実、戦国期〜江戸初期は偽文書が最も多く作成され、そのなかでも、各種の手工業者・商人から芸能民までを広く含む「職人」が、生業に関わる特権と職能の由来を正当化するために偽文書を作成し、社会の中で効用を果たしていっている。
網野善彦氏は、このような事態が展開していったことについて、そこには日本の社会・文化の根底に触れる重要な問題が横たわっていると述べ、鋳物師の偽文書を始め、数多くの職人の偽文書を事例に挙げて優れた成果を残した。(中略)
本書では、偽文書がなぜ社会に受け入れられ、如何なる機能を果たしてきたのかという疑問を、日本社会という背景の中で考えてみたい。」(山本「はしがき」より) |
|
【主要目次】 |
|
廻船大法の成立と伝来 再論
−廻船人の祖法を持ち伝えるということ− |
(日本海事史学会会員)
山本 直孝 |
近世伊豆東浦の漁業と海域社会の動向
−争論における享保十三年の「覚」の意味をめぐって− |
(跡見学園女子大学教授)
泉 雅博 |
近世人の表現をめぐる試論
−昔話・妖怪・偽文書・芝居など− |
(神奈川大学日本常民文化研究所客員研究員)
関口 博巨 |
寺社縁起と歴史の創造
−阿波国南部の熊野権現縁起を例として− |
(徳島県立博物館学芸員)
長谷川賢二 |
信濃『村上家伝』の偽書世界
−同一化と忠誠の歴史− |
(NPO団体代表)
佐藤喜久一郎 |
獅子舞由来書をめぐる歴史と民俗
−群馬県高崎市阿久津町の三匹獅子舞の由来をめぐって− |
(立正大学教授)
時枝 務 |
|
|
|
|
  |