No.490(2007.11)

出版社に対して「ノン」】

 「日本史史料研究会」をご存知だろうか。そこから「日本史史料研究会研究選書1」として、細川重男『鎌倉北条氏の神話と歴史』(2007.10、定価表示なしだが1500円)が刊行された。同会はすでに「〜研究叢書1」として、中島善久編・著『官史補任稿 室町期編』を刊行している。
 さらに同会では、選書と叢書の原稿の公募をおこなっている。条件は「著者の負担金はございません。ただし、初版でご原稿料をお支払いすることもできません。ご著者には20部献本させていただきます」(詳しくは同会のウェブサイト参照。http://www17.plala.or.jp/t-ikoma/index.html)。
 いままでも、ページ数の少ない史料集や索引などは、個人や研究会が私家版のようなかたちで出版するケースはあったが、ここまで「本格的」にやろうとしているのは、少なくとも日本史系では初めてだろう。
 趣旨はよく判る。高くて買えないような本を出されるくらいなら、自分たちで安く作っちゃうぞ、ということだろう。そして、現に作ってしまった。そして、確かに安くできた。前記の細川著は180頁で1500円。岩田書院で今度だす『日本中世のNATION』は170頁で2200円。なぜその定価で出せるのか、それは人件費・広告費・管理費がゼロだからだろう。
 岩田書院といえども、私(というか我が家)の人件費は必用である。広告費は年間2000 万円かけている。管理費も、編集校正費・倉庫代などで毎月100万円以上かかっている。著者に対する条件はほぼ同じで、発行部数の5%相当の献本。協同執筆の論集は執筆者1人1冊献本。負担金としては要求しないが、できるだけ売ってね、買ってね、というお願いをしている。もっとも、どう見ても「売れない」というものは、別扱いです。
 で、なにが言いたいかというと、これって、出版社の役割って何なの、と問われているのだろう、と思うのですね。こうして自分たちで本を安く作ったとして、研究者以外にどうやって告知するの?、これから刊行点数が増えたとき、在庫管理や本の発送や代金の回収など、どこまで自分たちでできるの?。そこらあたりが、やりきれなくなった時に、出版社の役割が見えてくるのかもしれない、ですね。