No.131 1999年1月
【抜き刷りをつくると本が売れない?】
 「抜き刷り」というものを御存じだろうか。学会誌などに論文を発表した場合、自分の執筆部分だけを仮製本した小冊子である。かつては、出版社から発行される協同執筆の論文集などの場合にも、無償または有償で抜き刷りを作っていた。しかし近年は、それをやる出版社はほとんどなくなった。なぜか…。本が売れなくなるからである。
 学術専門書が売れなくなった原因のひとつに、コピー公害があると言われる。岩田書院の本の平均頁単価は20円強、見開き2頁で40円である。しかしコピーは1枚(2頁分)10円程度でできる。一方、協同執筆の論文集の場合、読者にとっては、1冊の本の中で必要な論文は数本しか入っていない場合が多い。となると、必然的に読者は本を買わないで、該当論文だけをコピーして済まそうとする。
 ところで、この「業界」は世界が狭い。執筆者が自分の関係者に抜き刷りを配ってしまうと、本を買いそうな人のところに抜き刷りが行き渡ってしまい 本が売れなくなる。
 でも、抜き刷りを作らなかったとしても、執筆者は自分でコピーをとって、関係者にそれを配るのである。自分の論文が1本のっているからといって、高い本を自分で1冊買ってまでして関係者にあげるほど お金がある執筆者は少ない。となると、「抜き刷りは作らない」と出版社が言ったところで、あまり意味がないことになる。そこで勇気をだして(?)抜き刷りを作ったことがある。結果はどうだったかって…?。
 どうも、売上げが落ちたような気がする。

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