黒田基樹著:『戦国期領域権力と地域社会』

評者:山野井健五
「地方史研究」343(2010.2)

 本書は、黒田基樹氏の十二冊目の単著であり、一九九七年から二〇〇七年までに発表された戦国期及び中近世移行期の領域権力及び村落・土豪に関する既発表論文一〇本と新稿一本が収録されている。
 構成は以下の通りである。
 
 序
T 領域権力の構造と特質
 第一章 下総千葉氏権力の政治構造
 第二章 甲斐穴山武田氏・小山田氏の領域支配
 補論一 常陸江戸崎土岐氏の領域支配と村
 第三章 戦争史料からみる戦国大名の軍隊
 第四章 小早川秀詮の備前・美作支配
 第五章 九条政基にみる荘園領主の機能
U 「村の成り立ち」と地域
 第六章 伊豆西浦三津村の構造
 第七章 伊豆西浦大川氏の展開
 第八章 開発請負人 武蔵世田谷領の大平氏
 第九章 上野女淵郷と北爪氏
 第十章 信濃虎岩郷と平沢氏
 補論二 在村の侍と村役
 第十一章 戦国期「半手」村々の実態

 T領域権力の構造と特質では、戦国期に発生し江戸期においても権力の基本形態であった領域権力に関する論文が収められている。この問題については主に東国を中心に著者が一貫して取り組んでいる問題であるが、本書では小早川領国や和泉国日根野荘など西国や畿内の事例も検討されており、著者の領域権力論が一層の深化を遂げている。
U「村の成り立ち」と地域では、中世後期以降の村落が共通した課題である安定した存続、著者が言う「村の成り立ち」に関する論文が収録されている。この問題に関しては『戦国大名北条氏の領国支配』(岩田書院、一九九五年)や『中近世移行期の大名権力と村落』(校倉書房、二〇〇三年)でも検討されている。本書では特に近隣村落や地域との関係を重視した上で、その中で重要な役割を果たす土豪層の動向を分析を中心に行っている。

 本書に通底する問題意識は中近世移行期社会の実態解明である。だが、それだけに止まらず当該期に関する伝統的な理論である太閤検地論や兵農分離論を克服し、具体的な事例を基に新たな時代像を提示することをも射程に入れた意欲的な一冊となっている。
右記の問題意識が明確に表れているのは、Tでは、戦国期領域権力における戦争の実態、軍隊の特質について検討を加え、戦争主体としては近世初期領域権力と大差が無い点を示した三章、領国支配の実態から戦国期領域権力と豊臣期・近世初期領域権力との相違が無い点や、転換点として元和期が想定されることを提示した四章。Uでは、中近世移行期における伊豆西浦地域の三津村と周辺村落の生業を明らかにした上で、同地域の生業形態が補完関係にあることを証明し、西浦地域の土豪大川氏の各家の動向に検討を加えることによって、伊豆西浦地域の「村の成り立ち」と土豪の関係を提示した六・七章であろう。
このように本書は、戦国期から近世初期にかけての移行期の問題を領域権力・土豪・村落と各層ごとの関係に即して書かれたものである。戦国期研究者のみならず近世史研究者にとっても必読の書である。


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