北川 央著『神と旅する太夫さん』

評者:小岩
「全日本郷土芸能協会会報」58(2010.1)

 伊勢大神楽は、国の重要無形民俗文化財(伊勢大神楽講社として6組)に指定されている我が国を代表する神楽の一つだ。「太夫」と呼ばれる所属員達は今もそれを専業とし、西日本を中心に中国、四国まで2府11県に亘るお祓いの旅「回壇」を一年中続けている。神楽漬けの一年とはどのようなものなのか、今も神楽が廻って来る地域の人々はどんな気持ちで彼らを待っているのだろう−当然沸き上がる疑問は本書が解決してくれる。
 著者は、大阪城天守閣研究副主幹という多忙な現場におりながら、ここ数十年の廃絶の危機から近年の若者の入門による復興を見続けてきた。また伊勢大神楽のスポークスマンとして常に第一線に立ち、豊富な知識経験と写真で以ってその魅力を発信し続けているから、本書も実に頼もしい。そこに描かれる回壇風景を見れば、太夫さんは伊勢のお札を携え訪れる畏れ多き存在であると同時に、その芸は人々にとって一年に一度の楽しみであり、感動的な再会の場でもある。こんな日常風景が今も残っているのだ。
 ところで伊勢大神楽といえば、私の気の置けない友人の名を挙げておかなければならない。「加藤菊太夫組」に所属している中木青茂(セイモ)だ。彼は東京出身だが、芸の極致を目指して果敢なるチャレンジをし続ける魅力溢れる男性である…。
 去る12月24日はクリスマスイヴ。一方、三重県桑名市の増田神社では恒例の「総舞」が行われた。一年の回壇を終えた各講社が勢揃いして総舞奉納をした後、太夫さんたちはまた新たな回壇の一年へと出発する。
 


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