鈴木昭英著『越後瞽女ものがたり』

評者:鈴木孝庸
「新潟日報」(2009.9.27)

 盲目の女性旅芸人・瞽女(ごぜ)。かつて日本各地で、はやり唄(うた)から伝統歌謡、さらに古い語りものなどを披露することで、人々に貴重な娯楽をもたらしていた。近年は越後にその命脈が保たれ、全国の注目を浴びた。瞽女ブームから約半世紀経過。この間、瞽女に関するありとあらゆる方面に取材を重ね、考察を公表してこられた鈴木昭英氏が、一般読者向けに分かりやすく説いた本を出版された。著者の瞽女に関する単行本としては、『瞽女 信仰と芸能』(1996、高志書院)に次ぐ。

 本書によれば、瞽女が、旅回りに終止符を打ったのが今から32年前、技芸を伝えた小林ハルさんが亡くなったのが4年前である。瞽女の活動に日常的に接することができなくなって久しいが、本書には、たくさんの貴重な写真(ほとんど著者の撮影)に、簡明な解説が添えられてあり、往時を知らない者にとっても、何か懐かしく、見たことのある光景だと思ってしまうほどである。瞽女を「ものがたる」本書の文章は淡々として、読者をやさしくその世界に招き、写真は、旅姿、門付けのひとこまなど、近づいたり大写しだったりと、著者のおおらかな視線を感じさせるものとなっている。

 本文は、歴史、生活実態、演唱実態と三つの柱から成っている。瞽女の前史をたどり、『瞽女縁起』という関係史料に触れ、瞽女仲間の体制を紹介する。そして、弟子入り・稽古(けいこ)・旅・門付けと、修行と一体の生活の様子を跡付け、年に1度の重要儀式「妙音講(みょうおんこう)」については、高田・長岡など拠点別に詳述している。後半は、瞽女唄の演目を概観し、段物(だんもの)、口説(くどき)など語りものの技法へと視点を移す。読者に瞽女のすべてが分かったと思わせるような、そのような力のある本と言ってよい。著者が、段物祭文松坂(さいもんまつざか)の演誦技法に関して、瞽女仲間に属していたかどうかで歌い方が異なると指摘している点に、私個人は注目した。

 今から18年前、著者を中心にして長岡市に「瞽女唄ネットワーク」が誕生している。本書は、季刊「瞽女唄ネットワーク通信」に創刊以来連載された「瞽女物語」が基となった。現在、「越後瞽女銘々伝」を連載中、また、新潟市の「瞽女文化を顕彰する会」の「会報 瞽女」に「瞽女 芸道の軌跡」を連載中とのこと。こちらも一書になる日が待ち遠しい。
(新潟大学人文学部教授)


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