堀内 眞著『山に暮らす 山梨県の生業と信仰』 |
|||||
評者:湯川洋司 | |||||
「日本民俗学」257(2009.2) |
|||||
本書の「山」について、著者は、「地形としての山のみならず、そこに展開するヤマの用例やその表現とされる認識の多様性を含めて、このような山の自然環境と人間活動の接触を通じて、この領域で生成し、醸成されてきた生活様式を山の民俗として捉え」る(はしがき)と説明している。一部書下ろしを含み、山梨県内を対象にした既発表の文章を編集して成ったもで、次のような構成と内容である。 T 山の作物 Tでは夕顔が取り上げられる。第一章では夕顔が古い栽培作物であり、また年占作物、禁忌作物でもあるなど、その特色を整理し、第二章で富士吉田市の小室浅間神社で小正月に行なわれる筒粥神事の実際を詳細に記述する。この神事では一番に夕顔の作占いがなされるが、第三章で各地の神社で行なわれる筒粥神事を分析するなどした結果、八ヶ岳や茅ヶ岳の山麓地域では麦が、甲府盆地の平坦地では苗床がそれぞれ一番に占われるのに対し、山間地域では夕顔が一番になされることを示して、夕顔が持つ山の作物としての性格を抽出している。 本書は、白身の丹念な調査により得た資料に基づく詳細な報告と、資料を整理した表や分布図を多用した考察とから構成されている点に特色があり、それゆえにヤマの世界の性格を実感的に理解することができる内容になっている。 |
|||||
|