植木行宣著『中世芸能の形成過程』

評者:星野 絃
「全日本郷土芸能協会 会報」57(2009.10)

 中世芸能といえば、田楽、猿楽等のことで今日の民俗芸能の中にも田遊び(御田植神事)、田楽躍り、延年などこの系脈の伝承が現存していることは周知の通りである。また、幽玄美、“花”の芸道論(世阿弥)に裏付けられ、他の追随を許さぬ芸境を現前している能はこの中世芸能の粋である。
 鎌倉、室町期におけるこの中世芸能の形成過程を古文献史料類を渉猟して論考したのが当著である。史書類の弊で当著も読みにくいと敬遠されがちであるが、あたかも探偵小説の謎解きのように順序立てられて推論されているのでその恐れは杞憂だ。
 世阿弥の手になるという能の修羅物、鬘物に顕著な所謂夢幻能の誕生には芸術(芸能)創造者の個人的感性が関わっており、歴史的記述になじまぬところである。ところがうまく著者は説明している。怨霊、精霊など異界のモノの出現がその種の能の筋立ての根幹となるが、それを延年の風流、連事(れんじ)辺りに追求しており、作品出現の前提、環境の論述に対する心配りが大変よくなされているなと感じた。


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