原口清著・原口清著作集編集委員会編
  『原口清著作集4 日本近代国家の成立』

評者:岡野樹明
「地方史研究」340(2009.8)

 本書は原口清著作集の第4巻として刊行され、日本近代国家成立史の代表作を収めている。原口氏は、明治維新を「絶対主義の成立」とする立場であるが、近代日本への政治的変革過程の考察では、その概念規定よりも、変革を行なった主体と国家権力の性格解明が重要であるとしている。本書の構成は以下の通りである。

T
 日本近代国家の形成
 序
 序説 日本近代国家の形成をめぐる問題点
 第一章 中央集権国家の成立
 第二章 国家の自立と近代化
 第三章 明治国家権力の原型−「大久保政権」−
 第四章 ブルジョア革命への日本の道−その挫折−
 終章 日本近代国家の成立
U
 明治憲法体制の成立
 はじめに
 一 明治憲法体制構築の諸契機について
 二 立憲政体樹立の準備作業
 三 天皇制支配体制の確立
 おわりに
V
 廃藩置県政治過程の一考察
 T 問題の所在
 U 政府首脳の基本構想について
 V 三藩連合の成立
 W 明治四年六月の政局について
 X おわりに
解説(勝田政治)
初出一覧

 本書の解説者、勝田政治氏によれば、T・Uが「体系的な日本近代国家成立史論」、Vが「廃藩置県論」である。解説では、原口氏の日本近代国家成立史論の特徴、背景とその後、廃藩置県論提示とその後について簡潔・明瞭にまとめられている。以後は、解説を参考に、各論考の中心となる論点を簡単ではあるが触れておく。
 Tの「日本近代国家の形成」は、戊辰戦争から明治一四年の政変までを中心に、Uの「明治憲法体制の成立」は、明治一四年の政変から明治憲法制定を対象とし、日本近代国家成立史論を論じている。原口氏はT・Uを通して、明治維新により誕生した明治太政官体制と明治憲法体制の国家形態の相違を重視し、太政官体制の「体制的修正」により明治憲法体制が成立したと主張している。その内容としては、五か条の誓文から廃藩置県期の国家権力の形態を「絶対主義」と規定し、廃藩置県から明治一〇年代初頭は、国家権力は専制と立憲制の二大要素を内包するが、専制が支配形態の地位を貫徹し、基本的には「絶対主義」であり、大久保政権が「日本絶対主義の原型」だとしている。そして反政府運動を契機に、明治一〇年代初頭から「体制的修正」が開始され、一四年の政変の民権運動敗北により立憲制的修正が本格化し、明治憲法制定で、「絶対主義」と近代革命原理との妥協・混合の形態である立憲君主制的国家形態となつたとし、これを「絶対主義」が主導的な「絶対主義的天皇制」と規定している。そして憲法外的装置と皇室典範とともに全体として天皇制支配体制が成立し、この時期国家権力を掌握していたのは半封建的専制官僚であるとしている。また、天皇輔弼形態は太政官単一主義の崩壊で、多元的となり、三権は天皇大権に従属しながらも分立し、宮中・府中が区別されたとしている。
 Vの「廃藩置県政治過程の一考察」は、廃藩置県についての政治過程において(原口氏の旧説を含めた)通説である、維新政権は封建的領有制を本質とする藩体制の解体と中央集権化を目標とした諸政策を強行し、明治三年の秋頃から政府首脳によって周到に準備された廃藩置県が行なわれた、とする直線的理解に対して痛切な批判を加えている。
 本書を読んで改めて、原口氏の「具体的な史実」を究明していくという姿勢の重要性を実感させられた。本書の内容はその後、原口氏自身や他の研究者によって批判・修正・変更された点もあるが、日本近代史を研究する上での重要な基礎文献であり、是非ご一読いただきたい。


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