小川千代子編『デジタル時代のアーカイブ』

評者:今村千文
「地方史研究」340(2009.8)

 本書は、編集者である小川千代子氏が二〇〇六年度東京大学大学院情報学環学際情報学府冬学期に開講した「アーカイブの世界」の受講生を中心として執筆されたものである。学際的な授業のため、執筆者も多方面の人から構成されているのが特徴である。
 デジタルアーカイブ(ズ)が指すものは、所蔵史料の複製、電子記録の取扱、インターネット上での公開など多岐に渡る。本書での「デジタルアーカイブ」の定義は、「コンピューターで、実際の文書を見ることができるシステム」となっていることに留意したい。本書の構成は次の通り。

 はじめに                            小川千代子
 第一章 日本の公文書館とデジタル化          山田理恵子
 第二章 埼玉県立文書館における教育普及運動の展開と展望
        −文書館が生み出す「学び」と学校教育−   姫野貴之
 第三章 ファッションとアーカイブ               青木淳子
 第四章 文化資源電子情報化メディアと諸法規      研谷紀夫
 第五章 中国・台湾におけるデジタルアーカイブ      大澤 肇
 第六章 アーキビストとアーカイブ利用者のための
     国際アーカイブ情報ゲートウエー         小川千代子
 第七章 国際機関と国連のアーカイブ          小川千代子
 キーワード
 参考文献・URL

 本書の特色のひとつは、アーカイブ研究者、あるいは「デジタルアーカイブ」の作成者の視点と同時に、利用者の視点からも「デジタルアーカイブ」を論じている点が挙げられる。そのため、HPの検索性、利便性についての問題点の提起が多いが、インターネットが普及したことによって、「いつでも」「どこでも」「誰でも」文書館や博物館のホームページを訪れ、検索をかけられるようになった現在、このような利用者の視点も重要な指摘となると思われる。対象は国内の文書館だけでなく、服飾に関する国内外の博物館、美術館など多彩である。また、「デジタルアーカイブ」の有力な活用の一つとして、学校数育との連繋が挙げられている。
 海外の「デジタルアーカイブ」については中国や台湾だけでなく、国連あるいはそれ以外の国際機関についても紹介している。特に台湾の档案に限らず図書、言語、果ては自然科学の標本等も網羅したNDAPの連合目録の紹介は興味深い。さらに、ユネスコのアーカイブポータルサイトが紹介されている。これは、そこから世界中の文書館や文書目録データベースヘアクセスできるものであるが、そこの分類体系の活用方法も紹介されている。
 また、「デジタルアーカイブ」を作成する者の立場から、資料の複製や公開など「デジタルアーカイブ」を構築する際に直面する諸法規(著作権だけでなく例えば財産権、所有権)が分かりやすく解説されている。これらの問題をクリアするものの一つとして「クリエイティブコモン」などが例示されているのも今後の参考となろう。
 なお、巻末に参考文献だけでなく参考URLも記載されており、世界各地のアーカイブのURLが紹介されている。こちらも参照されたい。「デジタルアーカイブ」の世界への入門書として格好のものであるといえよう。


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