星野 紘著『村の伝統芸能が危ない』

評者:中坪功雄
全日本郷土芸能協会「会報」56(2009.7)

 私たちが書店で本を買う場合、タイトルのつけ方次第で買う意欲が左右されるものである。どんなに素晴らしい内容であっても、人々の目に触れなければ何もならない。著者のタイトル付けは、読者の側に沿った提起であり、今の時代に訴えなければならない刺激的な課題が網羅されている。今回伝統芸能が抱えている危機を、これほどまでに具体的に訴えた研究者は、殆どいないと言っても良い。
 民俗芸能研究者たちは世の中の動静には関係なく、芸態や資料の調査収集と分析だけで通用していた。しかしこれからの研究はリスクマネジメントや地域振興との関わり合いなども対象となっても良い筈である。このような調査は著者にとって楽しい筈はないと思う。そんな思いまでして出版した本書は説得力がある。限界集落の到来に伴い、神楽などの崩壊に直面している長野・岩手・高知・愛知の重要無形民俗文化財の現状に触れているが個人の調査には限界があろう。危機的状況に対して文化庁は国指定、国選択、県指定文化財に対して対処する責任がある筈である。直属研究機関である東京文化財研究所に対しても、崩壊してゆく地域伝統芸能の現状調査とその対策は緊急の課題である。一方では市町村単位の無形文化財は、もっと悲劇的状況ではないかと推察する。ところで対談特集は噛み合わない意見が多く、日々学生に対面している人とそうでない人では考え方には温度差があり過ぎる。対談者からは学校で取り入れる事が急務といっても、今の学校の環境や教員が置かれている現状にも目を向けて欲しい。それではどうすれば良いか、対談者からは危機感が感じ取れない。ところで著者も私も同世代同学年でお互いに辿ってきた道は、天と地ほど違いはあるが、この年齢になってようやく認識を共有するようになったと感ずる。著書にはゴゼとか祖母から聞いた昔話など事例もあり、長野県伊那谷で育った私も同じ体験をしてきたので感慨深いものがある。


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