由谷裕哉著『白山・立山の宗教文化』

評者:西海賢二
「地方史研究」339(2009.6)


 金沢を基点としながらも常に全国への気配り目配りをしながら、さらには日本海側の山岳宗教など日本の宗教文化に関する、宗教民俗学、社会学的研究で活躍されている由谷裕哉氏の三冊目の著作が本書である。
 一九九四年二月に刊行された前著『白山・石動修験の宗教民俗学的研究』(岩田書院)では、これまで、白山と石動という北陸の霊山については、郷土史−地域的な観点から「霊山信仰史」を試みたり、あるいは仏教民俗学の視点から、全国的な修験道の本質を探る素材としていたものを、そこに依拠した修験の、時代ごとの宗教的性格などについては、ほとんど省みられることがなかった点に注目してまとめられ、新たな白山・石動の修験道文化を提起したものとして注目された著作であった。
 その後十五年、前著の視点を拡大して白山・立山の宗教文化をまとめられたのが本書である。本書の結論によれば「第一に、中央の修験道が形成されてゆくことと相即的に、それ以外の霊山に依拠していた山林行者がその体制に組み込まれる、すなわち地方霊山における組織化が始まるとするなら、それ以前を問題とする観点である。地方霊山におけるそうした組織の成立に伴うものとして開山仏承があると考えられる所から、開山以前という位置づけでその対象を設定した。この対象事例として、本書では北陸の霊山・立山に関して摂関期から院政期にかけて知られるようになる地獄説話をとりあげた(第一部)。
 第二に、開山以降。すなわち地方の霊山において一山組織が成立して以降を課題とした。とくに白山の加賀側の宗教的拠点であった本宮に伝承された文献資料を中心として、中世の中ごろ(一四世紀)から近世までを対象とする。主要なテーマとしては、その組織において中心を占めていた長吏と衆徒、そしてとくに近世以降に勢力を増す社家との相剋などが、設定される(第二部)。」(三一六頁)としている。
 以下に本書の主要目次を掲げる。

序論  地方霊山の位置づけと研究視角
第一部 立山の地獄説話と開山伝承
 第一章 立山の宗教文化と地獄説話・概観
 第二章 『法華験記』に描かれた立山地獄説話・立山開山伝承と比較して
 第三章 『今昔物語集』巻十七における立山地獄説話とその中世的展開
 第四章 中央と地方霊山における本地説と開山伝承
第二部 白山加賀側の長吏・衆徒・社家
 第一章 14世紀から15世紀前半までの白山加賀側の衆徒
 第二章 一揆時代における加賀白山・本宮とその長吏を中心とした概観
 第三章 一揆時代の加賀白山を巡る五つの宗教的テキスト
 第四章 一揆時代後半における三代の白山本宮長吏・再考
 第五章 近世下白山における長吏と社家との関係
結論 成果と課題



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