たばこと塩の博物館編
  『広告の親玉 赤天狗参上! 明治のたばこ王 岩谷松平』

評者:高野弘之
「地方史研究」338(2009.4)


 本書は、二〇〇六年一月から三月まで同館で開催された同名特別展の関連講演会の記録である。講演会は岩谷松平(以下岩谷)が生きた「明治という時代」の背景を知り岩谷の与えた影響を見るという視点で催され、経済・博覧会・広告・印刷という展示理解を促す各分野の専門家を迎えている。
 本書の構成は次の通りである。

 はじめに
 世紀転換期の起業家たち   武田 晴人
  はじめに
  一.世紀転換期という時代
  二.第二の開国「内地雑居」
  三.「金色夜叉」の時代
  四.世紀転換期の起業家たち
  五.たばこが与えた影響
 内国勧業博覧会と実業界   関根  仁
  はじめに
  一.内国勧業博覧会の開催
  二.内国勧業博覧会と実業界
  三.社史に見る内国勧業博覧会
  四.たばこ業界と内国勧業博覧会
  五.博覧会の効果
  おわりに
 明治期の広告        坂口 由之
  はじめに
  一.文明開化と近代広告の幕開け
  二.江戸期から継承する広告と表現様式
  三.新しいものへの挑戦、ニューメディアの登場
  四.明治のニュービジネス広告代理店の誕生
 (特別付録)「商人に告るの文」
 明治時代の印刷技術     平野 武利
  はじめに
  一.石版印刷
  二.オフセット印刷の登場と石版印刷の頂点
  三.写真術
  四.コロタイプ
  五.木版印刷
  六.活字・木口木版
  おわりに
 岩谷松平遺品の旅      中村 七重
  はじめに
  一.松平遺品の旅
  二.子孫から見た松平のこと
  三.松平という人物
 あとがき
 執筆者紹介

 武田は、産業構造の変化および「内地雑居」による外国資本の流入という時代背景、当時の人々の持つ経済・経営感覚、主要な起業家との比較、たばこ産業自体の位置付けを解く。
 関根は、多様な意味合いを持つ博覧会で産業がどのように人びとの目に映ったのかを分析し、産業界と博覧会の相互関係を見る。
 坂口は、広告全般を俯瞰し、岩谷が「企業のイメージ戦略、ブランド戦略、あるいはCSR」など「今日言うところのマーケティング理論や広告セオリーに則った広告宣伝を既に実践していた」と分析する。
 平野は、岩谷のアイディアを実現させる背景である印刷技術に焦点を当て「広告合戦」を支える舞台裏を明らかにする。
 中村は、岩谷の子孫ならではの興味深い家伝を交えてスキャンダラスに伝えられた原因を分析、岩谷のパーソナリティを再評価する。
 執筆者による多くの切り口に耐えうる岩谷の持つ個性・行動力、マーケットの特性、産業の持つ大きさに驚かされる。資料では語りきれない部分を補完する装置として専門家による講演は有効であるが、音声情報は揮発性が高い。本書のようなブックレットが数多く発行されることを願いたい。



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