原口清著・原口清著作集編集委員会編
     『原口清著作集3 戊辰戦争論の展開』

評者:鈴木 挙
「地方史研究」337(2009.2)


 本書は原口清著作集の第三巻目であり、一九六三年に塙書房より刊行された『戊辰戦争』を主として、いわゆる戊辰戦争論争における『戊辰戦争』批判への原口氏の反論などから構成されている。以下に本書の構成を掲げる。

 T
戊辰戦争
 まえがき
 序 章−研究史のなかから−
 第一章 「大政奉還」と「王政復古」
 第二章 新政府の変貌
 第三章 維新政府の成立
 第四章 関東地方とその周辺の動乱
 第五章 東北戦争
 第六章 戊辰戦争の意義
 U
『戊辰戦争』補論
江戸城明渡しの一考察
 V
『マルクス主義の基礎』と『戊辰戦争』
解説『戊辰戦争』と原口史学(松尾正人)
初出一覧

 本書の主となるTの『戊辰戦争』は原口氏の数多くある著作の中でも代表作の一つであり、今なお戊辰戦争研究の基本文献として位置づけられている。その論点は多岐にわたり、この小稿の中でその全容を示すことはむずかしい。読者には是非自身で手にとって一読していただきたい。
 また『戊辰戦争』は一九六三年の発行以来、長く戊辰戟争研究の主要文献として位置づけられてきたわけだが、その背景には「歴史学上の問題としては、あれこれの理論の採否は、あくまでも具体的な史実の究明にいかに役だつかということを最高基準にして、取捨選択が行われる。」とする原口氏の姿勢がある。
 原口氏は広範な史料収集と、厳格な史料批判により歴史叙述を行っている。それによって時代の状況などに流されない確固たる歴史叙述が可能となっている。この実証的な姿勢は歴史学の基礎であり、原口氏の姿勢からは勉強させられることは非常に多い。
 その原口氏の姿勢はUに掲載されている『戊辰戦争』批判への反論である、「『戊辰戦争』補論」にも見て取れる。ここでは主に石井孝氏・田中彰氏の批判に対し、豊富な史料と詳細な分析を用いて答えており、『戊辰戦争』を更に深く読み込めるようになっている。また、同じくUに収録されている「江戸城明渡しの一考察」は『戊辰戦争』の内容を深化させるとともに、原口氏の静岡藩の成立史研究の一部ともなっている。
 最後にVに収録された「『マルクス主義の基礎』と『戊辰戦争』」では、原口氏の学問的姿勢、学風の形成に多大な影響を及ぼした三浦つとむ氏の『マルクス主義の基礎』(青春出版 一九五七年)と『戊辰戦争』との関係が述べられている。ここからは原口氏の学風の形成過程だけではなく、原口氏が『戊辰戦争』によって確立させた学風の史学史的な意味を見て取ることも出来る。




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