胡桃沢勘司編著『牛方・ボッカと海産物移入』 | |||||
評者:西海 賢二 |
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「地方史研究」337(2009.2) | |||||
はしがき このうち、第一編第一章は大久根茂・渡辺定夫氏との共著、同第二章第三節は大久根氏との共著である。本書は第一編第一章『大町・糸魚川街道のボッカ調査報告書』(一九七六年三月、立教大学宮本研究室)を初出として第二編第二章第二節「飛騨鰤再考−木曽谷の伝承をめぐって−」(『民俗文化』一三、二〇〇一年三月、近畿大学民俗学研究所)までの四半世紀に及ぶ研究成果を報告と論文にまとめたものである。とくに一九七六年の報告は一九七二年から七三年にかけての調査データであり、調査後三六年を経過した今日、大町・糸魚川街道のボッカを研究するときの貴重な「民俗資料」であり、今後このような調査報告を作成することは不可能であり、さらにこのデータが学部生の見るもの全てが新鮮に写る時代に調査されているもので、かえって生きたデータが縷々報告されており、今後のこの地域の基礎データとなることは必定であろう。さらに民俗学の近年のいわゆる基本項目+時代の潮流にのった調査項目方式とはことなり徹底した経済伝承に終始して収集していること、また調査方法が編者を含めた三人が民俗学だけでなく歴史学(古文書)・民具学の素養があって(いうまでもなく当時の立教大学宮本馨太郎研究室のあり方であるが)調査する確かな視点をもっていたことがこうした伝承・文献・民具(物質)を活用させたボッカ論となっているのであろう。 他の項目は胡桃沢氏の単独による著作であるが、すべては一九七二年から一年半余りの大町・糸魚川街道周辺の調査が基礎となって展開していることが本書を通読して明らかとなる。前著の書評の時にも触れたことだが近年の民俗学研究における「経済伝承」は低空飛行であることは否めない、胡桃沢氏と酒を飲み交わすたび「近年の民俗学の凋落ぶりを思う時」民俗資料のもつ重要性が民俗学の人たちから消滅しようとしている現実に本書は、「足・目・耳・モノ」から地域の経済伝承を紐解くよき指標になる一書であろう。「交易交通史の民俗学的研究」という分野を手がけている胡桃沢氏の前著「民俗として把握される交易、およびその展開の前提となる前近代的な形の交通を、西日本をフィールドとして検討し、交易・交通史研究のなかへ位置づける」(五〇二頁)の畿内を中心とした点としての研究から中部日本かつ東日本をも視野に入れた著作が上梓されたことは民俗学内部にも一つの風穴をあけたものであろう。「民俗資料」の収集を忘れがちな若い民俗学を標榜する方々に一読を薦めたい。 |
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