中野高行著『日本古代の外交制度史』
書評:【無記名】
「古代文化」60-3(2008.12)

 本書は中野氏が1984年以来の発表論文に新稿を加えて学界に問うたものである。
 序章では、石母田正氏の「国際的契機」論を軸として従来の外交史研究を概観し、外交史を黎虎氏の『漢唐外交制度史』を参照して外交交渉史と外交制度史に分別する。中野氏によれば、後者は外交のハード面(外交機関と外交官吏)とソフト面によって構成される。その構成の検証として各部各章の課題が考察されていくのである。
 第一部は新羅使の入境に際して行われる敏売崎と難波館での給酒規定と入境儀礼についての考察であり、それとともに外交施設・交通路、ヤマト王権の世界観が検討されている。 第二部は、対蕃国外交意思伝達上最も重要な外交文書であった慰労詔書について、大化前代に遡ると考えられる口頭による対蕃使詔との関係も考慮しつつ検討し、同詔書が8世紀以降用いられるようになり、対蕃使詔に取って代わっていったこと、それは外交意思伝達方法の中国的なものへの一本化と評価できると論じる。
 第三部は外交機関・外交官吏の特性の考察である。蕃国使節来日の際の検査を担当した官僚群(大学寮・外記・内記官人を中心に)を考察し、宝亀年間までの政治優先・太政官主導型の人選が中国文化の専門家による礼制理論重視型に転換すると指摘する。
 第四部は、古代日本律令制国家の世界観である「小中華意識」を考察する上で、帰化人という用語が妥当性を有すると論じている。
 終章では、各部の結論をまとめて今後の課題を確認し、外交様式の「中国化」とともに「日本固有の制度」の存在を指摘できると総括し、その上で、東アジア世界各国の対外的交通の構造分析においてボールデイング氏の「脅迫システム」論は有効なパラダイムであり、そのシステムの変遷を考察する視座として外交制度史が設定できると論じている。
 外交制度史の研究に理論的・方法論的視座を構築しようとする中野氏の強い意欲が感じられ、同分野の研究におけるさらなる活躍が期待される。それとともに、同氏には外交交渉史研究においても古代日韓関係についての業績があり、外交制度史研究の視座の裏付けを踏まえた展開が期待できるであろう。



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