遠藤ゆり子・蔵持重裕・田村恵美編『再考 中世荘園制』
評者:松永英也
「地方史研究」336(2008.12)

 本書は「はしがき」にも記されているが、二〇〇五年一二月に歴史学研究会中世史部会の例会として開かれたミニシンポジウム「中世社会論−人々にとって荘園制とは−」の成果と課題を追究したものである。
 本書の構成は、以下の通りである。

  はしがき
 序章 荘園制研究にみる中世社会論の課題
  はじめに
 一 壮園制論の成果と課題   遠藤ゆり子
 二 中世成立期の勧農・開発と荘園制   守田 逸人
 三 「名」「名主」と中世前期社会   長谷川裕子
 四 中世前期の村落内身分   川戸 貴史
  むすびにかえて
 第一部 荘園制と在地世界
 第一章 荘園制の形成と民衆の地域社会   田村 審美
 第二章 荘園制下の開発と国判
        −新たな荘園制論によせて−   鈴木 哲雄
 第三章 中世の水害と荘園制   水野 章二
 第四章 村落領主制論再考   小林 一岳
 第二部 荘園制の社会構造
 第五章 十二世紀末の戦争を通してみる寄進の一考察   遠藤ゆり子
 第六章 中世後期の京上夫の活動   徳永 裕之
 第七章 九条政基にみる荘園領主の機能   黒田 基樹
 第八章 荘園制・中世社会について
        −所有論の視点から−   蔵持 重裕
 シンポジウム討論要旨

 序章において、これまでの荘園制研究を総括され、その中から荘園制論における課題、つまり荘園制を在地社会の動向と関連させて検討し、そこから中世前期社会を把握することを掲げる。そして、その課題を解明する論点として、「領主の機能論」という側面から開発・勧農という視点、またその領主の機能に対応する在地側の機能として「名」「住人」という村落内身分という視点を、それぞれ挙げている。
 こうした課題を受けて、第一部では田村氏は中世前期の郷の実態から、鈴木氏は一二〜一三世紀の荒野開発における国衛への開発申請と承認から、それぞれ荘園制の形成を論じている。そして、水野氏は水害の復旧対策にみる領主の役割と存在意義について追究し、小林氏は沙汰人の村落における実態に着目し、そこから荘園制の基底に「共和制」システムが存在したことを明らかにしている。
 また第二部では、遠藤氏は被寄進者の役割と在地社会における寄進契約の意義から、徳永氏は在地社会における京上夫の意義からそれぞれ荘園制の機能をみる。黒田氏は九条政基の家領荘園である和泉回目根荘の荘園領主としての政治的機能から荘園制の機能と特質を見出し、蔵持氏は分権性・分節性を特徴とする荘園制社会を所有論と社会機能論という二つの観点から検討している。

 以上、雑駁ながら本書について紹介をしてきたが、中世社会における社会システムとしての荘園制を理解・考察していく上で、各論文ともあらためて重要な提起をしている。多くの人にご一読をお勧めしたい。



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