天野紀代子+澤登寛聡編『富士山と日本人の心性』 | |||||
評者:越川次郎 | |||||
「地方史研究」335(2008.10) | |||||
本書は、富士山を様々な研究視角から捕捉しようとしたものである。具体的な問題意識として、「日本人は富士山に何を感じ、何をもって精神的な拠りどころとしてきたのか。富士山は、いつの頃から日本の象徴と見做されるようになったのか、またその信仰はどのような形で人々に浸透したのか」(5頁)などを掲げている。 T 描かれ・語られた富士山 本書の特色は、考古・文学・歴史・民俗・芸能・図像など様々な研究分野から富士山にアプローチしている学際性であり、検討された時代も縄文時代から現代まで実に幅広くバラエティに富んでいる。この種の論文集は、自分の専門や関心に沿って拾い読みするのもいいが、通読することによって、さらに大きな効果が期待できよう。専門外の視点や理論に触れることで刺激を受け、それらが読者の専門分野と脳の中で混ざり、化学反応が起きることが期待できれば、それは非常に大きなメリットである。例えば、「富士山に対する縄文人の意識化について」(17〜38頁)では、縄文ランドスケープ研究の成果を援用して、富士山周囲の配石遺構を検討している。縄文ランドスケープ研究とは、本書によれば縄文時代の大規模構築物に天文や自然環境との関連性を認め、そこに当時の社会の仕組みや世界観などを読み取っていこうとする試みである(18〜19頁)。浅学な私は、このような考古学上の研究視点を全く知らず、大変刺激を受けた。私の専門である民俗学にこれを応用できないかと考えている。他の諸論文も、ここで詳しく紹介することは出来ないが内容的に大変興味深い。通読することをぜひお勧めしたい。 |
|||||