山口博著『戦国大名北条氏文書の研究』
評者:平野明夫
「地方史研究」335(2008.10)

 本書は、小田原市史に長年携わられた山口博氏の論文集である。二部七章に、補論一編・付編三編が付されている。その構成は、以下の通りである(カツコ内は初出年)。

序 章(新稿)
  一 北条氏文書に関する研究の現状
  二 本著の構成と視点
T 印判使用をめぐる問題
第一章 氏康による「武榮」印判の使用(二〇〇三年)
第二章 氏政による「有效」印判の使用(新稿)
第三章 氏康・氏政と虎印判状奉者(二〇〇四年)
第四章 幻庵宗哲所用「靜意」印判に関する考察(二〇〇〇年)
補 論 所領分布から見た幻庵宗哲の政治的地位(新稿)
U 花押変遷と改判
第一章 氏康花押の変遷(一九九九年)
第二章 氏直花押の変遷と改判(一九八九年)
第三章 氏政の改判(二〇〇五年)
 付編
  一 「合討」(「相討」)の感状(一九九〇年)
  二 「諸州古文書」および「諸家古文書写」中の氏忠印判状写(一九九〇年)
  三 伊豆荻野文書中の吉良氏朝書状(一九九四年)

 「T 印判使用をめぐる問題」は、従来、充分な機構的・制度的な分析がなされず、実態が不明瞭なままに、いわば既定の事実として説かれてきた隠居後の氏康・氏政の政務への関与について、印判使用から具体的に検討した論稿(第一章〜第三章)と、北条氏一族衆のひとり幻庵宗哲の政治動向を印判使用から分析した論稿(第四章・補論)からなる。隠居の権力行使という問題は、戦国大名権力を考える際に重要な要素であり、本書は、その基礎となるものである。
 「U 花押変遷と改判」は、氏康・氏政・氏直という北条氏第三代〜第五代当主の花押について、形態変遷、改判の動機・経緯などを検討したものである。こうした研究は、できるだけ多くの原本調査を必要とするものであり、小田原市史に長年携わった山口氏ならではの成果である。
 付編は、新出文書(発表当時)の紹介を中心としつつ、その政治動向に触れた論稿などである。

 山口氏の研究成果は、年欠文書の年代推定に利用されるなど、すでに北条氏関係の文書の検討には不可欠となっている。それらの論稿がまとめられた本書によって、北条氏文書の理解が格段に深まったといえる。北条氏関係の文書を検討する際に、基礎となる書である。



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