原口清著・原口清著作集編集委員会編『原口清著作集2 王政復古への道』
評者:清水善仁
「地方史研究」334(2008.8)


 二〇〇七年九月、原口清著作集の第二巻として『王政復古への道』が刊行された。第一巻『幕末中央政局の動向』に続き、幕末政治史、とりわけ元治・慶応期を対象とした論考を中心に構成されている。まずは所収内容を以下に掲げる。
 T
  禁門の変の一考察
  孝明天皇と岩倉具視
  孝明天皇の死因について
  医学と歴史学
  慶応三年前半期の政治情勢
 U
  明治太政官制成立の政治的背景
  王政復古小考
  王政復古と摂関体制小考
 V
  明治維新研究と私
 解説(家近良樹)
 初出一覧

 本巻解説を担当された家近良樹氏によれば、Tは「武力倒幕派が形成されるに至る過程を追った論考」、Uは「王政復古政府成立の背景を探った論考」、Vは「原口が幕末史研究に入るまでの経緯を自ら語った講演記録」をそれぞれまとめたとある。以下、紙幅の許す限り、もう少し各論考の内容に触れておきたい。
 I、「禁門の変の一考察」は、文久三年八月一八日の政変から元治元年の禁門の変に至る国是問題を中心とした政治過程を、それまでの長州藩を中心とする視点を拡げ、朝廷や幕府などの動向を含めて総合的に検討を加えた大部の論考である。「孝明天皇と岩倉具視」は、毒殺死か疱瘡死かという孝明天皇の死因をめぐる論争を発端として、その黒幕として位置づけられた岩倉具視の存在を中軸に据えながらも、文久ならびに慶応期の朝廷・公家社会をめぐる政治的動向を論ずる。「孝明天皇の死因について」「医学と歴史学」も前稿に関連するもので、孝明天皇毒殺説を史料に基づいて実証的に批判した論考である。「慶応三年前半期の政治情勢」は、当該期における朝廷内部の動向を検討し、その上で武力倒幕派の形成について指摘する。
 U、「明治太政官制成立の政治的背景」は、王政復古によって発足した新政府(王政復古政府)の成立に至る背景とその性格を検討する。「王政復古小考」は、大政奉還から王政復古までの政治過程を、主に三つの論点を中心に分析、「王政復古と摂関体制小考」は、幕末政治史における摂関制の問題に関する論考である。
 V、「明治維新研究と私」は、原口氏の研究軌跡についての講演である。それはまさしく明治維新史研究の史学史とも言え、諸先学に対する原口氏の見解が随所に示されている。

 以上、ごく簡単に所収論考について紹介したが、本巻所収の論考のなかで、執筆時期が最も古いのは「王政復古と摂関体制小考」である。初出一覧にもある通り、本論考は『大久保利謙歴史著作集』第二巻「付録」に掲載された、比較的短い文章である。私事ながら、紹介者はこの論考を大学三年生のときに初めて接し、幕末政治史における摂関制の問題の重要性を初めて認識した。その後、紹介者は卒業論文で幕末期の近衛家について検討し、現在は幕末の公家社会研究をテーマにしている。その意味で、本論考は紹介者にとっての幕末政治史研究のスタートとなるものであった。今日、改めて本論考を読み返してみたが、一九八六年段階での本論考の指摘は特に重要であろう。すなわち、大久保利謙氏が『岩倉具視』(中公新書、一九七三年)などのなかで重視した摂関制研究の意義を継承し、それを顕著に発展させた原口氏の諸業績は、現在の幕末朝廷・公家社会研究の活況の嚆矢となったと言っても過言ではあるまい。本巻には、とりわけこの分析視角による論考が数多く収載されており、家近氏も解説で「朝廷における旧体制の打倒につながった摂関別の崩壊の問題に本格的に取り組んだ最初のケースとなった」と述べている。
 本巻を含む本著作集が、明治維新史研究に果たす意義は決して小さくない。初学者には、まず本著作集を手に取り明治維新史研究の世界に入ることを勧めるし、第一線の研究者もまた、みずからの研究活動のなかで、本著作集に立ち戻ることもあるだろう。そのような意味で、本著作集は、明治維新史研究者にとって座右の書と言えるだろう。



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