田沼睦著『中世後期社会と公田体制』
評者:平野明夫
掲載誌:「地方史研究」333(2008.6)



 本書は、宮内庁書陵部研究官から、筑波大学・東京成徳大学で教鞭を執られた田沼睦氏の論文集である。二部一二章に、付編三編が付されている。その構成は、以下の通りである(カツコ内は初出年)。

第一部 室町幕府・守護支配と公田体制
 第一章 寺社一円所領における守護領国の展開
       −東寺領丹波国大山荘を中心にして−     (一九五九年)
 第二章 国衙領の領有形態と守護領国           (一九六五年)
 第三章 公田段銭と守護領国               (一九六五年)
 第四章 中世的公田体制の成立と展開           (一九七〇年)
 第五章 室町幕府と守護領国               (一九七〇年)
 第六章 室町幕府・守護・国人              (一九七六年)
 第七章 室町幕府財政の一断面−文正度大嘗会を中心に−  (一九七七年)
 第八章 荘園領主段銭ノート−賦課仕組みに触れて−    (一九九二年)
第二部 中世後期荘園制の諸相
 第一章 南北朝・室町期における荘園的収取機構
       −東寺領丹波国大山荘を中心として−     (一九五八年)
 第二章 公家領荘園の研究−十六世紀初頭における領主権と在地状勢
       〈九条家領日根野荘の場合〉−        (一九六〇年)
 第三章 荘園体制の解体過程
       −垂水西牧における社家・国人・村落−    (一九六六年)
 第四章 室町期荘園研究の一、二の視点          (一九七六年)
付編 史料の周辺
 一 「政基公旅引付」について              (一九六一年)
 二 「とはずがたり」の下人史料             (一九六九年)
 三 南北朝内乱期の一訴状                (一九七一年)

 収録にあたっては、誤植などの訂正のほかは最小限の訂正にとどめたというので、初出時の状態が見られる。そして、第一部・第二部・付編それぞれが、発表順に並べられており、田沼氏による研究の進展の状況が把握できる構成になっている。
 「第一部 室町幕府・守護支配と公田体制」では、公田体制の実態を究明し、その公田体制の上に支配を展開する室町幕府・守護について論じた諸論考が集められている。なお、「公田」の読みは、本書奥付に「こうでん」とルビが振られている。「第二部 中世後期荘園制の諸相」は、室町期の荘園について具体的に検証した諸論考が収録されている。

 本書を構成する諸論考は、一九五八年から一九九二年までに公表されたもので、その中心は一九六〇年代である。すでに約四〇年を経過しているものの、室町期守護の実態を究明した研究は、発表当時僅少で、その後も長く参照されたものである。
 近年では、畿内近国の事例を中心として、室町後期の守護に関する研究も、進展してきた。しかし、田沼氏の研究は、昨今の守護論では等閑視されているように感じられる。田沼氏による守護の領国支配に関する具体的な検討は、現在でも参照すべき成果と思われる。
 本番の成果を研究史上に正しく位置づけ、乗り越えることが求められよう。そうした本書の刊行を素直に歓びたい。

 




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