小堀光夫著『菅江真澄と西行伝承』
評者:野村典彦
掲載誌:「口承文芸研究」31(2008.3)


 菅江真澄の作品を手がかりにした口承文芸の通時的探求の一里塚であると序論に示されている。そこには、当初は客観資料を取りだそうとしたとの正直な言葉もある。
 菅江や西行たちの足取りと自身の足取りとが重ねながら小堀は、近世から現代にかけての伝承の変容を指摘する。そして、柳田国男以降の口承文芸研究の枠組み・概念によって菅江の記述を読んできた研究を参考にしつつ、その相対化を意識してか、最終章では「奇談」という菅江自身の括りによる検討を試みるところへと到達する。柳田の伝説研究が文庫資料に大きく依拠することを改めて確認した上で、博物学という視点によって、文字の引用を多様する菅江の記述と交叉させる。既に、「遊歴」「物産学」を手がかりとした次の一里へと歩みが進められていることだろう。
 巻末に資料として「菅江真澄の記した西行伝承」を付す。


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