小堀光夫著『菅江真澄と西行伝承』
評者:田口昌樹
掲載誌:「菅江真澄研究」63(2008.1)


 本書は次のように構成されている。

序 章 口承文芸研究と菅江真澄
〔著者の真澄と西行研究の考え方の推移〕
第一章 西行伝承と真澄の記述方法
〔初期の旅(天明四年〜八年)の中での真澄の西行のとらえかた〕
第二章 西行伝承と真澄の旅
〔西行の伝承を語りながら歩いた旅人、ある地点で生活しながら西行の伝承を伝えてきた人々。その人たちと真澄はどのように接してきたか〕
第三章 箟岳の西行伝承
〔東北地方には羽黒山など一山組織の寺社には「西行戻し」という地名が残る。この地名は一山と俗界を分ける結界地であるという。宮城県涌谷町の箟岳の例を紹介しながら「西行戻し」の伝承を探っている〕
第四章 伝説研究と菅江真澄
〔柳田国男の『山島民譚集』は真澄の著作が多数引用されているが、柳田がなぜ真澄を引用したのか、柳田がめざしたものは何なのかに言及している〕
第五章 菅江真澄と奇談
〔真澄は地誌の中に山姥、狒々、山人などの伝承を奇談として取り上げている。真澄の意図はなにか〕
資 料 菅江真澄の記した西行伝承
〔菅江真澄全集(未来社)の中にある西行の記録をすべて抽出して紹介〕

 著者は「口承文芸研究」が専門であり、本書も菅江真澄の残した『真澄遊覧記』と総称される作品群を西行伝承、伝説、奇談といった口承文芸の視点から述べたものである。著者は主として真澄の著作の中から地誌を中心に口承文芸を取り上げてきたが、最近は旅日記、随筆にも目をむけ、『粉本稿』などの図絵集、断簡の中からも、西行の記事を見出している。
 著者は昭和六十年七月、野村純一教授(元国学院大学教授・元当研究会会員・昨年ご逝去)に従い、秋田県山内村(現横手市)の民俗調査に従事している。『雪の出羽路平鹿郡』十四巻をテキストに持参したという。著者はその成果を平成二年「秋田県平鹿郡山内村昔話集」として『伝承文藝』十七号に掲載している。また、「菅江真澄と民間説話−『雪の出羽路』平鹿郡を中心に−」(『説話・伝承学』三号)もある。著者の原点は『雪の出羽路』と山内村にあるようである。本書の「あとがき」の中で、野村純一編によって昭和六十年十月に出版された『日本伝説大系』第二巻中奥羽の野村教授の「あとがき」を紹介している。
 「七月下旬から秋田県平鹿郡山内村に滞在した。一週間の予定であったが、赴くにさきがけて、菅江真澄の『雪の出羽路』をハンドブックにしよう、そう提案しておいた。研究会の学生諸君はそれに応じて、それぞれの歩く処とそこでの該当箇所を拾い上げて用意していた」(以下略)とある。
 本書は有限会社岩田書院発行、価格は一、八〇〇円+税、一般の書店からも購入できます。
(紹介者・田口昌樹)


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