長谷川匡俊著『近世の地方寺院と庶民信仰』
評 者:西海賢二
掲載誌:「日本民俗学」252(2007.11)


 本書は淑徳大学学長の要職にあられる長谷川先生の近著である。私の小さな書架には先生の次の著作がある。『近世念仏者集団の行動と思想 浄土宗の場合』(評論社・一九八〇年)『近世浄土宗の信仰と教化』(渓水社・一九八八年)『近世の念仏聖無能と民衆』(吉川弘文館・二〇〇三年)などである。とくに一九八八年の著作と二〇〇三年の著作は、近世の幕藩体制下、浄土宗の僧侶のなかに「捨聖派」と称された念仏者たちを追い求めたもので、これまでの「近世仏教堕落論」を一蹴するような金字塔的著作として後学のこの分野に興味をもつもののバイブル的著作でもある。とくに近世の念仏聖である捨聖派僧、無能が東北地方で行った布教の足跡を、民衆との信仰的関わりのなかで考察されたことは、これまでの近世念仏聖の近世的性格と意義を解朋するものとしてひときわ光彩をはなっている。
 さて、学長という激務のなか、また大著が刊行されたことは喜び以上に驚きを覚える。以下に本書の構成(概略)を紹介する。

T 寺院と檀越
  中世仏教と千葉氏
U 房総地方の寺院分布と浄土宗教団
  近世後期 房総寺院の分布と本末組織
V 開帳と庶民信仰
  坂東二十七番札所 飯沼観音の開帳と庶民信仰
W 巡礼・遊行と庶民信仰
  房総の札所巡礼今昔
V  地方の宗教事情と念仏信仰
  近世中期 東北地方の宗教事情と念仏聖の宗教活動

 本書は房総半島を中心として寺院と庶民信仰の横の繋がりを紐解いたものであり、とくに寺院と檀越、開帳、巡礼、念仏などの庶民信仰の実相を描いており、信仰を発信した側の在地寺院(著者も浄土宗大厳寺住職である)からの庶民信仰に対する民俗学的な照射が随所にみられ、信仰を受容した側からの庶民信仰の見方が多い民俗学徒に一読をすすめたい一書である。


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