原口清著・原口清著作集編集委員会編
『原口清著作集T 幕末中央政局の動向』
評 者:宮間純一
掲載誌:「地方史研究」331(2008.2)


 明治維新史学会の有志(勝田政治・久住真也・高木不二・松尾正人・森田朋子)が編集委員会を立ち上げ、著者の長年にわたる研究業績がテーマ別に全五巻の著作集として刊行されることになった。本書はその第一巻目で、書名にあるように、幕末期、とりわけ文久〜元治年間における中央政局の動向に関する著作を収録している。
 本書の構成は、以下の通りである。

 刊行の言葉(原口清著作集編集委員会)
 回顧点描 −一歴史学徒の軌跡−
 T
  近代天皇制の政治的背景
    −幕末中央政局の基本的動向に関する一考察−
  幕末政局の一考察
    −文久・元治期について−
 U
  文久二、三年の朝廷改革
  文久三年八月一八日政変に関する一考察
  参預考
 V
  幕末長州藩政治史研究に関する若干の感想
  明治維新政治史上の諸問題(一)−井上清説の検討−
  『遠山茂樹著作集 第一巻』解説
  解説(高木不二)
  初出一覧

 以下、本書の内容を略述する。
 Tは、幕末中央政局全体に関わる二論文である。第一番目の「近代天皇制の政治的背景」は「国是(最高国家意志)」問題を中心として幕末政治史を考察した論文で、著者の幕末史研究の中で基盤をなす著作といえる。第二番目の「幕末政局の一考察」は、二〇〇四年に発表された最新の論文で、現時点における著者の幕末政治史研究への認識が読み取れる。
 Uの三論文は、Tの二論文と密接な関係をもつ個別事例について検討したものである。最初の「文久二、三年の朝廷改革」は、文久年間の朝廷改革問題を他の政治動向とリンクさせながら分析している。次の「文久三年八月一八日政変に関する一考察」は、孝明天皇と中川宮の関与に焦点をあて、文久三年八月一八日の政変を再考している。最後の「参預考」では、「最高国家意志」の決定に重要な役割を果たした参預会議の成立から解散までを論じている。
 Vの三つの論考は、著者の歴史認識・方法論や、戦後の講座派に対する立ち位置を理解する上で格好のものである。

 巻末では高木不二氏が各論考についての解説を付し、「原口史学」を継承していく上での問題点を掲げている。各巻でそれぞれのテーマの第一人者が、独自の解説を加えていることも本著作集の魅力の一つである。
 明治維新史研究の諸分野では史料の発掘・公開によって、より実証的かつ緻密な研究が進められるようになってきたが、その反面、興味関心が細分化するあまり、明治維新期を総体的に把握する研究視点が希薄化していることがしばしば指摘される。「原口史学」の再検討なしに、そうした問題点を克服しえないことはいうまでもない。
 今後刊行される分を含めた五冊の著作集には、現在では手に入りにくい著作も収録されており、今後の明治維新史研究の発展に大きく寄与するものといえる。まずは、本書を手にとっていただき、続巻もあわせて一読されることを是非お勧めしたい。


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