岡山藩研究会編『藩世界の意識と関係』
評者・定兼 学 掲載誌・山陽新聞(2000.7.24)


 多様さと広がりを示す刺激満載の問題提起
 岡山大学付属図書館には、六万五千点にもおよぶ岡山藩政史料・池田家文庫があり、現在マイクロフィルムで簡単にみることができる。このマイクロ化の完成と前後する一九九二年七月、早稲田大学を中心に「岡山藩研究会」が発足した。マイクロ化によって史料が存分に利用できるようになった関東在住者の研究会である。
以来八年間、同会は精力的に調査と議論を重ね、先ごろ、待望の研究書『藩世界の意識と関係』が上梓された。十一人の執筆者からなる高度な学術論文集である。
「藩世界」概念を導入し、フィールドを岡山に限らず、江戸や大坂の藩邸も合め、幕府と藩、藩主と家臣や領民などとの「意識と関係」に留意したという。
 たとえば、大坂留守居の研究では、岡山藩と幕府(大坂町奉行)や諸藩との関係が明らかになった。藩当局とは独立した大坂留守居の役割を述べ、ここから多様で広がりある「藩世界」の一端が示された。
 他に、十七世紀の農業動向と山野政策を分析した研究。在地における紛争処理問題を扱い、村独自の世界を読みとった研究。近世の支配の特質は、軍事支配から法度支配へというのが一般的な認識だった。その延長に教諭支配の存在を見いだした研究。池田光政は、政治意見を家臣や領民に求めている。その日常性のなかから、「明君」光政像を浮かび上がらせた。
 さらに、藩主が少将などに昇進することの社会的意味を問うた研究。武士の無礼討ちに注目した研究。宇喜多氏や小早川秀詮(ひであき)の権力構造の研究。キリシタン禁制と宗門改制度の研究。岡山藩の石高の意味を吟味した研究など。
 とかく中央(東京)在住者の研究は、地元読者にとっては隔靴掻痒の感が否めず、少々難解かもしれない。しかし、真摯に熟読すれば、本書の随所に示される問題提起は、刺激満載である。
 磯田道史、堀新、しらが康義の三氏は岡山県出身である。学術の先見性のみならず、郷土への思いも読める力作だ。

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