高島慎助著『北海道・東北の力石』
評 者:福田アジオ
掲載誌:「日本民俗学」251(2007.8)


 かつて若者組が村落社会で活躍していた頃、若者たちは氏神境内や仏堂に集まり、娯楽をかねて、大きな重い石を持ち上げることを競ったと伝える所が多い。その証拠に、氏神境内や道の辻に大きな河原石が転がっているのを発見できることも多い。なかには石の表面には石の重さが刻まれたり、奉納者の名前が彫られたものもある。これを総称して力石と呼ぶ。今では多くの土地で忘れられた存在となっているが、かつての若者組の活躍を教えてくれる貴重な資料である。
 この力石の重要性に早く気づき、忘れられ、放置されている力石を捜して歩き、記録を作成してきたのが高島慎助氏である。高島氏の調査研究は地元の三重県から始まったが、そこから近畿地方、中部地方と広がり、ついには日本全国に及ぶようになった。調査成果は『三重の力石』(一九九八年)を皮切りに、播磨(二〇〇一)、大阪(二〇〇二)、東京(二〇〇三)、神奈川(二〇〇四)と順次刊行され、二〇〇五年には本書『北海道・東北の力石』が刊行された。これが一三冊目の報告である。さらに、その後も千葉(二〇〇六)が刊行されている。いずれも貴重な記録である。
 これらは基本的な構成は同じで、力石の歴史、競技方法、概要を記した総論を巻頭に置き、次いでそれぞれの地域の調査結果を個別に整理し、記述している。総論はどれもほぼ同文である。特定地域の力石を知る前提として、広い視野からの力石概説が置かれていることは、地域で調査研究しようとする各地の研究者には大いに参考になる。しかし、力石に関心を持ち高島氏の著書を複数購入した者はほぼ同文の総説を読むことになる。これが商品として販売されているだけに無駄な重複と感じられる。今後の刊行に際しては、再考してほしい点である。
 本書は従来あまり報告されてこなかった東北地方と北海道の力石二二三個について、県別・地域別に、所在地点、大きさ、写真を掲げ、また関連情報を記載している。情報は郷土史文献などに記載された記事の要約が多い。すでに力石を実際に使用した体験者がほとんどいない状態での調査であるから無理からぬことであるが、力石に関連する民俗伝承の記載量が少ないのは非常に惜しまれる。著者の精力的な調査活動によって力石への認識・関心は高まり、散逸を防ぐのに大いに貢献したが、それ以上に研究にも大きな役割を果たすことが期待される。そのためには関連する伝承の把握が不可欠である。今後の調査研究の進展を期待したい。


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