大島建彦著『アンバ大杉の祭り』
評 者:福田アジオ
掲載誌:「日本民俗学」251(2007.8)


 東関東地方各地から東北地方太平洋岸にかけて広く見られるアンバ大杉信仰については、古くから注目されてきた。信仰の中心にあるのは霞ケ浦の南側、茨城県稲敷市阿波に所在する大杉神社である。アンバ大杉信仰が、利根川流域を中心とした農村部の信仰と太平洋沿岸部を中心とした漁村の信仰では様相が異なることも多くの報告によって明らかにされてきた。また、近世史研究では、十八世紀前半の享保年間に突然大流行し、村送りで広がった大杉信仰はついに江戸に達し、江戸の人々が群参するという事態になり、ついには幕府の禁令が出されるまでにいたったことが明らかにされていた。近世の代表的流行神の一つと理解されてきた。
 著者大島建彦氏もかねてからこの信仰に関心を抱き、持続的に調査研究を行ってきた。すでにそれまでに調査して獲得した各種文字資料を中心にした『アンバ大杉信仰』を一九九八年に刊行し、この方面の研究に大きく貢献した。その貴重な資料集の刊行に際して「アンバ大杉信仰の展開」を掲載して、この特色ある信仰の歴史的性格について見通しを示していた。本書はその後の調査成果を中心に、現在各地に見られる大杉信仰の具体的様相をまとめたものである。前著と相互補完関係にあると言える。

 本書は、アンバ大杉の信仰の展開、太平洋沿岸のアンバ大杉の祭り、関東平野のアンバ大杉の祭り、房総半島のアンバ大杉の祭り、アンバ大杉の実態の五編で構成されている。
 「アンバ大杉の信仰の展開」では、文字資料を整理して、近世における大杉信仰の流行を概観し、各種調査報告などから抽出して祭礼一覧を掲げて、本書全体への導入としている。次の「太平洋沿岸のアンバ大杉の祭り」では、岩手県・宮城県・福島県・茨城県の沿岸部漁村におけるアンバ大杉の祭りを具体的に記述し、大漁祈願としての信仰を明らかにする。「関東平野のアンバ大杉の祭り」では、本社ともいうべき阿波の大杉神社の祭礼はじめ、利根川流域各地の行事を記述し、「房総半島のアンバ大杉の祭り」では千葉県内各地の特色ある祭礼行事を紹介する。そして、最後に設定した信仰圏との関係で祭礼行事の相違を整理し、今後への課題を示している。
 各地の大杉信仰の具体相を明らかにした本書の意義は高い。これらの事例を分析し、現代の信仰の地域差を考察すること、加えて近世中期の流行と現在の信仰との関係を究明することが著者から後進の者に与えられた大きな宿題である。


詳細へ 注文へ 戻る