東條 寛著『都市祭礼の民俗学』
評 者:福原 敏男
掲載誌:「日本民俗学」250(2007.5)


 本書は二〇〇一年に関西大学より博士号を授与された『村落祭祀と都市祭礼』のうち、都市祭礼に関わる論文を中心とした論集である。副題を「四日市祭の歴史と民俗」とするのは、著者が四日市市立博物館の学芸員、文化財担当係として、『祭礼・風流・山車−近世都市文化の文化史』展、『郷愁の四日市祭』展を企画、図録を編集・執筆し、『大入道山車調査報告書』、『北勢鯨船行事調査報告書』の調査・執筆を担当し、その過程の中で考察された論考であるからである。本書は「都市と祭礼」、「四日市祭の歴史と民俗」、「鯨船行事をめぐる民俗」の三章立て、計十二本の論文より構成されており、発表年次は一九九五〜二〇〇二年の八年間である。
 従来の祭礼論を概観すると、柳田國男・折口信夫による神樹や依代などの祭礼論は大正の時点における「視点の発見」であり、重要な学史として位置づけられよう。それ以降、日本民俗学では両先達の影響が強く、「信仰の表象としての祭礼」解釈が長く支配的であった。一方、日本史においては文化的支配装置としての祭礼論が盛んである。民俗学の若い研究者にあっては、「イベントとしての祭礼」研究に向かう姿勢が強い。これに対して、日本美術史・芸能史研究者などにより、飾り・風流文化論が提言され、評者は近年この動向に呼応し、都市において祭礼を維持する力は飾りを競い合うことにある、と提唱している。
 本書はまさに以上のような視点に連動するものであり、江戸期以来、東海道の宿場町であった都市「四日市」で繰り広げられた四日市祭の練り物、山車などの風流が伝承・文献・絵画の諸資料によって復元考察されている。三重県の場合、伊賀上野の天神祭、津祭り、桑名の石取祭りなどの祭礼風流が明らかにされつつあり、本書によって四日市の都市祭礼の実態が明らかにされた意義は実に大きい。ただ、本書が「地方の一都市の祭礼を考察するだけではなく、東海地方というより広い範囲での祭礼文化のあり方の中での位置付けについても考慮した」(まえがき)のなら、祭礼風流の宝庫である愛知・岐阜の祭礼への言及がもう少しほしかった、というのは無いものねだりであろうか。
 近年の財政逼迫・市町村合併の影響が特に文化財行政に及び、独立行政法人化、指定管理者制度導入という激動の時代にあって、文化財行政は「定員・予算を減、入館者・収入を増」策を強要されて喘いでいる。地域博物館は地域経済振興に直結しなくても、本来の在りようは、総合的に地域を担い、文化を発信するための施設である。例えば、四日市祭を支えてきた町衆の力を探求し二一世紀に生かすため、地域と行政を繋ぐことが地域博物館の仕事の一つでもある。本書は「地域博物館の学芸員としてのアイデンティティーの表明」(あとがき)であり、学芸員・文化財行政担当者は代替できない専門職(掛け替えない地域情報保有・研究者)であることを、しっかり跡付けてくれた。


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