岩井正浩著
『これが高知のよさこいだ! いごっそとハチキンたちの熱い夏』
評 者:矢島 妙子
掲載誌:「日本民俗学」250(2007.5)


 一九五四年に始まる高知市の「よさこい祭り」は一九九二年に札幌市に伝播して「YOSAKOIソーラン祭り」となり、それを参考にして全国で次々と同様な祭りが創造されている。民俗学の立場からも、この祭りの動態は都市や現代性を考えるうえで非常に興味深い事象である。
 本書の著者は高知県須崎市出身で、本書は、「よさこい」の本家である高知「よさこい祭り」についての研究である。著者は、芸能・音楽・舞踊などを調査・研究している音楽人類学者で、本書は著者の十八年に及ぶ研究の集大成であるという。 
 本書の構成は、
 一 黒潮の民と高知
 二 よさこい祭りが始まった!
 三 よさこい祭りを構成している大切なもの
 四 祭りの主役たち
 五 いごっそが陣取る地区競演場・演舞場
 六 競演場・演舞場を持つ商店街・町内会チーム
 七 パフォーミング・アーツの夏=ハチキンたちの街が燃える
 八 高知から全国へ
 九 新たな半世紀へ
 十 おわりに:現代の練り風流
である。
 まず、「黒潮」に関わる民謡や習俗から、高知を「黒潮の民」として位置づけ(「一
黒潮の民と高知」)、次に、「よさこい祭り」の説明に入る(「二 よさこい祭りが始まった!」)。「よさこい祭り」を開始するにあたって新しく作られた「よさこい鳴子踊り」(この作曲者の発案で、鳴子を手に踊ることとなった)や「よさこい節」の成立と土佐民俗との関わりを述べる。「三 よさこい祭りを構成している大切なもの」以下、祭りのガイドブックや地元新聞などを参考にしながら、音楽・振り付け・衣装・地方車(じかたしゃ。音響設備搭載車)の各制作者や主催者、チーム代表、競演場責任者など、祭りの中心的な関係者に聞き取りを行っている。また、二〇〇三年の第五〇回と翌年第五一回の祭りの様子をドキュメントして紹介している。そして、他地域の「よさこい」系祭りについても簡単にふれ、「よさこい祭り」を「現代の練り風流」として位置づけている。
 著者の説明はないのだが、タイトルにある、「いごっそ(う)」とは土佐の方言で、頑固な男性を指す。また、「ハチキン」も方言で、おてんば娘、また著者の説明にあるように、芯の強い女性を指す。このようなタイトルや聞き取りの列挙からもわかるように、本書は主に、祭りに関わるいろいろな立場の「人」に焦点を当て、その語りをまとめたものである。今後は、各年の曲の全体的な傾向の変化や各チームの曲の推移など、著者の専門である音楽面からの深い分析が楽しみである。


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