著者名:松本 一夫著『日本史へのいざない』
評 者:川田 純之
掲載誌:栃木県歴史文化研究会会報「歴文だより」61(2006.10)


 本書は、松本氏がこれまでに作成した高校における日本史教材を、一般向けにアレンジしてまとめたものである。内容は、原始・古代、中世、近世、近現代の時代順に22のテーマを設けている。各テーマは、「聖徳太子の実像に迫る」「藤原道長の悩み」「金権体質だった室町幕府」「鎖国とは開国だった」「江戸時代の法は農民がつくらせた」「戦前も象徴天皇制だった」など、刺激的で興味を引かれるものが多い。それぞれのテーマごとに「問い」が用意され、その「問い」を順番に読み進めていくにつれて、テーマを理解することができるようになっている。答えの解説は丁寧に記されており、ここからも多くの新たな発見ができる。
 たとえば「ペリーが日本に来たわけ」というテーマをみてみると、関係年表を参考資料として、開国を迫ったのがなぜ世界最強のイギリスではなくアメリカだったのかという「問い」を考えることから始まる。そして、アメリカの関心が東アジアに移ったきっかけ、捕鯨業がさかんな理由、航路や航海の日数など「問い」は多岐にわたり、ペリーの黒船を描かせたりしながら、「ペリー来航」は次第に豊かに膨らんでいくのである。
 本書からは松本氏の日本史に対する熱い思いが感じられ、日本史を学ぶことの楽しさを味わってもらおうというサービス精神がいたるところに見受けられる。本書の工夫された構成・展開は、「考えながら学ぶ」ことの大切さをあらためて感じさせてくれる。これは著者の日本史に対する見識の深さと地道な教材収集の努力がなせるわざであろう。教員だけでなく、歴史好きの人たちにとっても大変おもしろい本であり「日本史好き」を「ますます日本史好き」にさせていくだろう。


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