著者名:園田学園女子大学歴史民俗学会編『漂泊の芸能者』
評 者:大和 守
掲載誌:「芸能史研究」176(2007.1)


 本書は「そのだ歴史民俗ブックレット」の三冊目である。園田学園女子大学歴史民俗学会は意欲的に市民向けのセミナーを開催している。本書は、その一環として平成十五年十一月に開催されたシンポジウムをもとに構成された入門書である。
 本書の内容は、@北川央「伊勢大神楽の回檀と地域社会」、A村上紀夫「万歳考−散所との関わりを中心に−」、B井上勝志「浄瑠璃操り成立期の語り手」、C久下隆史「兵庫県下の民間芸能者」、D久下正史「奪衣婆を持つ聖」の五つからなる。
 ここに取りあげられた芸能は、民俗芸能のひとつとして認識されてきただけでなく、今日に伝わる伝統芸能や演歌、漫才へも影響を与えてきた存在として着目されてきた。いわば、日本の芸能の源流である。本書を通読すると、そういった感がよく伝わってくる。
 ところで、地域住民が余暇でおこなう芸能と違い、漂泊の芸能は専業者である。もちろん、兼業あるいは季節労働の場合もあるが、生業としている点は否めない。多くの民俗芸能では、ある年の演者は別の年には観客となり、彼らは同一の存在である。これに対して漂泊の芸能では、来訪する演者と地域住民である観客とが入れ替わることはない。この点からいえば、「民俗」芸能というよりむしろ「伝統」芸能に近いのかもしれない。「民俗」「伝統」「民間」といった語の、用法についても考えさせられる。
 この冬、NHKの衛星ハイビジョンで「芸は旅の空で〜伊勢大神楽に生きる人々」が放送された。桑名を本拠とする彼らの回檀の実態に迫る映像ドキュメントで、監修協力に北川氏が加わっている。@と同じく、観客である地域社会との関わりを重視した点で評価できる。
 本書では、漂泊の芸能の諸相と研究の到達点を示すものであったが、漂泊の芸能とは何か、といった共通の理解には至っていない。これはひとつの潮流の始まりである。   


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