著者名:白峰 旬著『幕府権力と城郭統制』
評 者:
掲載誌:「城郭だより」57(日本城郭史学会)(2007.4)


 近世城郭史に関する論考を精力的に発表、近世城郭史研究では今日、白峰氏の一連の業績を抜きにしては語れない状況下にある。この白峰氏が今般新たに論を再編成して『幕府権力と城郭統制』と題して新著を上梓された。既刊の白峰氏の著書『日本近世城郭史の研究』および『豊臣の城・徳川の城 戦争・政治と城郭』につぐ著書にあたる。すなわち今般は先の二冊の延長にあたる。徳川幕府である公儀権力がいかに諸大名の城郭を統制したかを権力側と諸大名側双方の史料を通して多角的に検証する内容である。
 第一部では武家諸法度下における城郭の修補と修築と題し、大名たちの居城の修築申請と増改築許可のそれぞれの基準を、申請から幕府内における扱い、絵図記載内容からの実情と乖離を検証する。幕府内で城郭修補の考え方また幕閣がかわると、普請と作事の申請方式もかわる。それにどう諸大名が対処したかを述べる。具体例として宝永六年から享保十三年の豊後國佐伯城の大修築過程をとりあげ作事方と普請方双方の過程を明らかにする。
 第二部は、城郭監察と幕府権力の介入と題し、実際行われていた諸大名の国許の城郭への幕府の監視の実態などをとりあげる。寛永四年の公儀隠密による筑前・筑後・肥前・肥後の索書から城郭をどう調査したか、内容記載を検討しその調査項目を各城ごと詳細な構成箇所に分け一覧表をつくる。どこに隠密の調査がなされたか、城別、地域別に検討できるデータを掲げる。さらに寛永四年の公儀隠密による四国の城郭調査をデータを整理しながら考察する。
 元禄十年の森家改易に伴う津山城受取り役を考察する。酒井家の上使役田村建顕の日記から、その動向が綴られる記述で興味つきない。城開け渡しは天保七年の石見浜田城引き渡しを「陸奥國棚倉江所替付、石見國浜田城引渡帳」から月日を追って詳細に述べ三六ヵ条の上使から提出された質書と松平浜田藩からの回答を一覧表にして綴られる。さらに転封後の棚倉城の様子について論述される。このように公儀と大名権力双方から城郭政策を論じた書は、従来なかった。好著である。


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