著者名: 現代伝承論研究会編『現代都市伝承論−民俗の再発見−』
評 者:松崎 憲三
掲載誌: 「日本民俗学」248(2006.11)

 編者である現代伝承論研究会は、一九九〇年に結成された都市を考える懇談会が一九九六年に発展的に改称されたものである。その前身である懇談会が「しだ いに都市研究の応用的側面に関心が集まり、都市民俗の本質的研究から遠のく傾向がみえてきた」。それゆえ原点に戻りつつ「『都市』を越えて、現代社会にお ける伝承文化のもつ意味、伝承文化のバリエーションと変容の実態、現代民俗の創出などという課題に取り組むことにした」という。本書はこうして再編され、 一〇年余りにわたって活発な研究活動を推進してきた同会の総決算ともいうべきものである。

 その内容は、
 一、都市の発見
  「都市民俗の思想」…和崎春日
  「感覚表現の伝承論」…小林忠雄
  「都市祝祭にみる『地域拡大・開放と地域再確立』」…矢島妙子
  「都市を観る、都市を読む」…後藤範章
   「『都市』再考の試み」…内田忠賢
 二、都市の伝承性
  「伝染病の都市民俗」…川部裕幸
  「見え隠れするムラ」…田野登
  「集団内部における隠語の伝承過程」…厚香苗
 三、伝承の現在
  「祭礼研究の現在」…中野紀和
  「応用民俗学としてのまつり」…法橋量
  「伝承される聖人伝説、聖人のイメージ」…竹内宏子
  「文化・観光資源としての『道祖神』」…倉石忠彦
  「聞書き『立川温泉生活誌』」…森栗茂一
以上である。第一部は方法論に関する論稿、第二郡は都市の伝承的生活面にスポットを当てたもの、第三部は主として応用民俗学的な論稿、以上によって構成されている。

 ここでは、枚数との関係で和崎論文、小林論文について若干言及するにとどめたい。和崎は、京都の大文字五山送り火を引き合いに出しながら、「風 俗」の跳梁に対する「民俗」の粘り返しといった論を展開し、変貌著しい都市民俗を把握するに際しては、風俗を視野に入れて分析すべきことを強調している。 一方小林は、「都市人のあいだでは色彩感覚を通して共有できる一定の世界が存在する」と主張した上で、都市民俗の新たな分析視点として「基層感覚」を提示 した。ともに興味深いが、風俗について小林は「風俗現象自体は、ほとんど固定した地域社会が介在していないことを示している」として、伝承母体論の立場か らやや否定的であり、和崎の風俗に対する認識とはズレがある。現代伝承論研究会が活発に議論を重ねてきたことは、巻末の研究会記録から知られる。しかし、 この例からわかるように、本書は必ずしも現代(都市)民俗研究の、一つの方向性を示すことを目論んだものではなさそうである。その分、学際的で個性豊かな 論稿が多くの示唆を与えてくれる。
 
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