著者名: 國 雄行著『博覧会の時代−明治政府の博覧会政策−』
評 者: 藤田英昭
掲載誌: 「地方史研究」319(2006.2)

 これまで、内国勧業博覧会(以下、内国博)の研究といえば、主に概説的なそれであった。本格的に検討されたとしても、経済史、社会史、美術史の分野に限 られたため、運営の実態は明らかにはされず、得てして、単発的な取り上げ方でしかなかった。本書はこうした状況を打開するため、明治期に開催された内国博 のすべて(全五回)を取り上げ、明治政府側の視点に立って、その運営の実態を詳細に分析したものである。全五回の内国博を一貫した視点で通観し、近代日本 の工業化・機械化の変遷過程を描いたところに本書の特色がある。
 本書の構成は以下の通りである(節・項は省略)。

 序 章
第一部 内国勧業博覧会前史
 第一章 明治初期の博覧会
 第二章 ウィーン万国博覧会
 第三章 フィラデルフィア万国博覧会
第二部 内国勧業博覧会の開催と実態
 第一章 第一回内国勧業博覧会
 第二章 第二回内国勧業博覧会
 第三章  第三回内国勧業博覧会
 第四章  第四回内国勧業博覧会
 第五章  第五回内国勧業博覧会
第三部 内国勧業博覧会と明治の産業・社会
 第一章 内国勧業博覧会の出品物分析
 第二章 内国勧業博覧会の「内国」の意味
 第三章 内国勧業博覧会の終焉
 終 章

 第一部では、特に明治初期のウィーン万博、フィラデルフィア万博への日本の出品状況を分析し、日本は優良工芸品によって諸外国から注目を集める ものの、機械文明・工業力こそが国力を示すことを痛感させられ、その後の内国博では富国強兵を目指し、機械技術の導入などいわゆる殖産興業政策を本格化さ せていく、と指摘した。
 それを受けて、具体的に全五回の内国博の実態に迫ったものが第二部である。政府の戦略・運営状況に視点を据えるとともに、メデイアや外国人の 反応にも注目した。出品物の分析や入場者数、博覧会規模の比較といった基礎的事項はもとより、内国博を通じた政府の国民統合、出品者の物産改良・販売促 進、開催地の都市整備・経済効果等も指摘している。また、出品収集活動に尽力した世話人や、会場内の整理等を担当した看護人といった運営の末端にいた面々 を取り上げた点も興味深い。一回から五回までを通観すれば、回数を経るごとに内国博が明治社会に浸透したことが明らかとなり、各回ごとに課題を克服して、 内国博が充実、または変貌していく様相が実証される。第二部は本書の主眼ともいえ、今後の内国博研究の土台を提供したものとして大きく評価できるだろう。
 第三部は、内国博を通じて明治社会の一断面を描いたところに特色がある。まず、全五回の内国博に出品された機械類に着目することで、明治政府 の殖産興業政策の進展具合を照射し、近代日本における機械化の導入過程を実証した。さらに、明治政府がなぜ博覧会に「内国」を付けた(付けなければならな かった)のかを検討し、不平等条約下で様々な足枷がありながらも、博覧会を開催し、工業化を進めていった明治政府の姿を描いた。そして、明治後期には地方 利益の重視や娯楽化の進展とともに、産業奨勅策としての博覧会の意味が薄れ、開催の主体が国家から民間へと移っていく過程を分析した。
 このように、本書は内国博を真正面から取り上げた実証的な研究成果であり、今後の内国博研究や各地で開催された共進会の研究などにおいて、大 いに参考となるべき文献である。文章も平易で解りやすく、専門書にしては珍しく、巻頭にカラー口絵とキャプションがあることも、学芸員を経験した著者らし い配慮といえ、内国博のイメージを膨らませてくれる。専門外の方にも一読をお勧めしたい。
 
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