著者名:松尾正人編『近代日本の形成と地域社会−多摩の政治と文化−』
評 者:外池 昇
掲載誌:「地方史研究」323(2006.10)

 編者松尾正人氏(中央大学文学部教授)は、一九九〇年に本会第四十二回大会が「『開発』と地域民衆」とのテーマのもとに東京都八王子市で開催された際に 本会常任委員長を務めた。同大会は通称「多摩大会」。広い層の市民の参加を得ることとともに、多摩の地域史研究の成果を大会に反映させることを大きな目標 として運営された。このことの実現のための松尾氏の尽力は大きいものであった。
 その後松尾氏は、武蔵村山市史編纂事業に携わった。本書刊行の契機も、同事業終了後
の多摩をフィールドとする近代史研究の展望にあったという。と同時に本書に収められた
論文の執筆者には、同市史関係者から、広く松尾氏に所縁のある多摩近・現代史にかかわ
る第一線の研究者の名が連なる。本書の構成は次の通りである。

・松尾正人「本書の目的と構成」

第一部 幕末維新の動乱と多摩
・藤田英昭(中央大学大学院博士後期課程・徳川林政史研究所研究生)
「八王子出身の幕末志士川村恵十郎についての一考察」
・松尾正人
「多摩の戊辰戦争−仁義隊を中心に−」
・保谷徹(東京大学史料編纂所教授)
「免許銃・所持銃・拝借銃ノート−明治初年の鉄砲改めと国産『ライフル』−」

第二部 近代多摩の社会と文化
・滝島功(中央大学文学部非常勤講師)
「地租改正後の多摩−地価修正の実施と救助金をめぐつて−」
・藤野敦(東京学芸大学附属高等学校教諭)
「旧品川県社倉金返還と地方制度の転換点−明治十三年に至る社倉金返還運動と国庫返済の背景−」
・石居人也(町田市立自由民権資料館学芸員)
「明治末期における『隔離医療』と地域社会−ハンセン病療養所全生病院の創設と多摩−」
・石本正紀(呉市海事歴史科学館〔大和ミュージアム〕学芸員)
「明治後期から大正期における地方銀行−五日市銀行の設立と経営一八九六〜一九二四年−」
・多田仁一(東京都立上水高等学校教諭)
「地域における近代俳人の誕生−埼玉県所沢の斎藤俳小星を中心にして−」

第三部 首都・多摩の形成
・鈴木芳行(租税史料館研究調査員)
「空都多摩の誕生−東京都制編入の防空事情−」
・梅田定宏 (東海大学菅生高等学校教諭)
「多摩の『都市化』の一側面−『総合的都市』建設を夢見た時代−」
・山田義高(武蔵村山市役所)
「多摩の戦後文化運動と武蔵村山」

 すでに触れた一九九〇年の本会第四十一回大会から早十六年。この間にも、多摩における地域史研究は多様な展開と発展をみせたといってよいであろ う。特に近世史・近代史、また現代史の領域にあっては、この国の首都である大都市江戸・東京の隣接地域としての多摩の特質がとみに注目されてきた。
 本書もまたこの研究の動向に連なるものとして、近代における多摩の歴史・文化・政治・軍事の諸相を解明する貴重な一冊といえる。広く各方面に、一読をお勧めする次第である。
 
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