著者名:國 雄行著『博覧会の時代 明治政府の博覧会政策』
評 者:伊藤 真実子
掲載誌:「日本歴史」701(2006.10)

 二〇〇五年は、博覧会の年であった。博覧会に関する本も、研究書のみならずさまざまなものが出版されたが、本書は、明治期に五回開催された内国勧業博覧会を対象としたものである。本書の構成は以下の通りである。

  序章
 第一部 内国勧業博覧会前史
  第一章 明治初期の博覧会
  第二章 ウィーン万国博覧会
  第三章 フィラデルフィア万国博覧会
 第二部 内国勧業博覧会の開催と実態
  第一章 第一回内国勧業博覧会
  第二章 第二回内国勧業博覧会
  第三章 第三回内国勧業博覧会
  第四章 第四回内国勧業博覧会
  第五章 第五回内国勧業博覧会
 第三部 内国勧業博覧会と明治の産業・社会
  第一章 内国勧業博覧会の出品物分析−機械工業の変遷−
  第二章 内国勧業博覧会の「内国」の意味
  第三章 内国勧業博覧会の終焉
  終章

 本書では、第一部で内国勧業博覧会の発想の原点となった明治初期の博覧会(物産会)と二つの万国博覧会への参加経緯および経験を、第二部では、五回にわたる内国勧業博覧会について、それぞれ開催の目的、経緯および、開催された博覧会の実態を詳らかにしている。第三部では、五回を重ねた内国勧業博覧会から明治時代の投射を試みている。
 本書でも指摘されているとおり、明治期の内国勧業博覧会は、将来の万国博覧会開催が念頭におかれて計画、実施されたものである。本書の中でも第一部でウィーン、フィラデルフィアの両万博での経験が、内国勧業博覧会へとつながったこと、第二部第三章で、一八七三年以来の佐野常民による国際博覧会構想、そして第五章で、計画段階において、一層万博開催への志向が強まり、開催された博覧会も、外国からの参加、植民地展示、多数の余興などの要素を持つ、それまでのものとは一線を画すものであったことが述べられている。
 内国勧業博覧会は、五回をもって終了したが、それは国策としての殖産興業の達成という意味を示す。事実大正期に開かれた博覧会の多くは、三越などの百貨店や、新聞社などの民間企業が開催するものとなり、博覧会の開催目的も産業振興、伝播から、消費など、生活スタイルの提示へと展開する。つまり博覧会自体、時代とともに、目的、機能、内容が変容していくものであり、それゆえ博覧会研究は、歴史学に限らない。

 近年の博覧会研究は、二〇〇五年に愛知で万国博覧会が開催されたこともあり、大阪万博から先に開催された愛知万博までを対象にした吉見俊哉『万博幻想−戦後政治の呪縛−』(筑摩書房、二〇〇五年)のように、戦後の博覧会が研究の対象となりつつある。そのほか、佐藤道信氏(本書でも先行研究に挙げられている。一二、一七頁では佐藤博信となっているが、道信の誤記であろう)【増刷にあたり訂正。岩田書院注記】 に代表される明治期の美術行政、近代実術という美術史、さらに都市開発、レジャー、消費、生活様式、宣伝や、植民地(およびそこに住む人々)がどのように展示されたかということなど、研究の観点が多様化している。
 このようにさまざまな観点からの研究の可能性を有する博覧会研究であるが、その中でも本書は、歴史的背景、経緯を押さえつつ、様々な統計が掲載されていることもあり、日本における博覧会の歴史を考察するうえで、基本となる一冊である。
                   (いとう・まみこ 学習院大学文学部助手)
 
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