著者名:青山英幸著『電子環境におけるアーカイブズとレコード−その論理への手引き−』
評 者:渡 政和
掲載誌:「地方史研究」322(2006.8)

 本書は『記録から記録史料へ−アーカイバル・コントロール論序説−』(岩田書院、二〇〇二年)、『アーカイブズとアーカイバル・サイエンス−歴史的背景と課題−』(岩田書院、二〇〇四年)に続く、三冊目の著書(共編著などを除く)となる。著者が「駿河台大学大学院文化情報学研究科(現在現代情報学研究科と改称)によって企画され、実施されているインターネット遠隔教育科目の一科目、筆者が担当している『記録史料情報学特論』として二〇〇四年度から用いたテキストを改訂して作成」したと「はじめに」で述べているように、大学院での講義が基礎となっている。
 本書の構成を示すと以下のようになっている。

 はじめに
 1 開講にあたって
 2 テキストと授業の進め方
T 誰がレコードとアーカイブズを作成するのか?
 1 人々や組織は何故レコードを作成し保存するのか?
 2 私たちは何故アーカイブズを保存するのか?
 3 レコードキーピングの歴史的背景
U レコードとアーカイブズとは何か?
 4 情報とレコードの関係は?(1)−オーラルと書かれたレコード−
 5 情報とレコードとの関係は?(2)−情報の樹−
 6 レコードとは何か?(1)−電子環境における定義−
 7 レコードとは何か?(2)−RECORDNESSとMETADATA−
 8 アーカイブズとは何か?(1)−古典的定義から現代の定義へ−
 9 アーカイブズとは何か?(2)−RECORDS CONTINUUM−
V レコードとアーカイブズ管理の基本要素は何か?
 10 ライフサイクル論
 11 レコード・リテンションスケジュールの考え方
 12 レコードとアーカイブズ管理の基本的構成
 13 機関としてのアーカイブズの基本的役割
 14 アーキビストの役割
 むすび

 本論の部分は、三部構成、全一四章で形成されている。それぞれの章が一回の講義内容になっていることは、「むすび」で「14回の講義」と言っていることや章が連続した数字であることからも窺えるだろう。さらに、各章の途中や章の最後には適宜レポートの提出が課されているなど講義のテキスト・レジユメとしての性格が大きいように感じられる。
 本書の内容については、著者自身が「講義内容」で
 ・レコードとアーカイブズ管理の重要性について
 ・現在のレコードキーピングとその歴史的背景について
 ・レコードとアーカイブズの定義、様式、媒体(メディア)について
 ・レコードとアーカイブズ管理の基本的機能について
 ほかに国内外のレコードとアーカイブズ管理に関する現状と課題について触れたいと書いているし、「講義達成目標」として
 ・レコードとアーカイブズが何故作成され保存されるか、について説明すること
 ・レコードとアーカイブズが何であるか、について定義すること
 ・レコードとアーカイブズ管理の基本要素、について理解し、説明すること
 ほかに、国内外のレコードとアーカイブズ管理に関する現状と課題について議論することができることだと述べられているように、欧米を中心としたアーカイバル・サイエンスの歴史的背景や昨今の動向を中心に原文を多く用いて述べられている。勿論、原文に対応した訳文があるため、外国語が苦手な者でもその内容を把握することができる。文章は、口語体の「です・ます」調であり、平易な親しみやすい文章となっている。しかしながら、訳文においても「です・ます」調であるため、文章表現がかえって文章を難解なものにしているのではないだろうかと思われる箇所がしばしば見受けられた。やはり、訳文は文体を変えてでも区別した方が良かったのではないだろうか。

 また、各章の途中の課題にはその後に回答例があるが、最後に課せられているレポート提出については回答例がない。これは、「テキストと授業の進め方」の中で、「課題のレポートは、下記のように課題に記載された【レポート+特定ナンバー】を冒頭に付与して、送付」するように書いていることによるからであろう。但し、この本のどこを見てもメールアドレスが書かれていないため、レポートを送る手だてがない。講義受講者ではないので仕方ないことなのかもしれないが、一般に販売している本であるならば回答例を付けるなりの対応が必要ではないだろうか。あるいは、「電子環境における」と銘打っているからには何らかのホームページを開設し、そこにレポートの回答例をアップするか回答例を読者にダウンロードさせるなどの方法で入手できるようにしてもらえるとよいのではないだろうか。
 以上、気のついた点ばかりを書いてきたが、本書はアーカイブズ・サイエンスを平易で簡潔な文章で紹介しており、これからアーカイブズ・サイエンスに関わろうとする者が入門書とするには格好の書であることは間違いないだろう。
 
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