著者名:松崎憲三編『同郷者集団の民俗学的研究』
評 者:倉石 忠彦
掲載誌:「日本民俗学」246(2006.5)

 都市、とりわけ大都市は、その地で生まれ育った地付きの人々だけでその繁栄を維持しているわけではない。物資の集散地であり、情報発信の地である都市は、それゆえに多くの人々を引き寄せ、その社会の構成員となるべく生涯を託する人々もある。如何に多くの人々を引き寄せ得るかに、都市の繁栄はかかっているとも言える。したがって農村の過疎化現象は、その背後に人口の都市集中という現象を控えてもいる。
 成城大学民俗学研究所は一九九九年から三年間に及ぶ共同研究「都市の中の故郷−同郷者集団をめぐる民俗−」を行ない、その成果報告書として本書は編まれたものという。大都市東京を中心としながら、向都離村により都市に集中した人々が、その出身地を紐帯として結成した同郷者集団を対象として、その歴史的展開と社会的機能とを明らかにしようとしたのである。それは都市と農村との交流の歴史でもあり、不安を抱えている都市人の故郷に寄せる篤い思いを解きほぐす作業でもあった。同時に故郷の過疎化対応策として、都市人が寄与することのできる可能性を探るものでもあった。

 本書は、三部構成のもと九本の論文を収めている。すなわち第一部「同郷者集団の実態」には、「向都離村と帰去来情趣」(松崎憲三)、「沖縄の同郷者集団−県人会活動を中心に−」(牧野眞一)、「同郷者集団と自治体−岩手県陸前高田市の事例を中心に−」(金野啓史)。第二部「職業・学業と故郷」には、「都市における同郷者集団の形成と故郷観−新潟県西蒲原地方の出郷者と東京の風呂屋・銭湯の展開−」(谷口貢)、「都市における青年と故郷−寄宿舎・学生寮にみる同郷者結合を中心として−」(前田俊一郎)、「同窓会と故郷−在京気仙沼高校同窓会の事例から−」(越川次郎)、「教育の中の故郷−一九三〇年代 都市における郷土教育試論−」(小国喜弘)。第三部「都市と農村の交流」には、「地域間交流事業からみた都市と農村−東京都品川区を事例として−」(鈴木厚志)、「地域活性化への取り組み−UIJターンを中心として−」(松崎憲三)の諸論である。また三〇頁に及ぶ関係文献目録も添えられている。いずれも詳細な資料を駆使した立論であり、現代における諸問題を、我々の生活を見つめなおすことによって解決しようとする民俗学にとって、避けてとおることのできない課題を多方面から取り上げ、整理しえたことは大きな成果である。
 
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